第51話 モブサブの開戦!
51
迷宮都市ミラディスを囲う巨大な市壁。普段は見張り用のスペースを除いて街の人間や旅人の憩いの場になっているそこに、今はいくつもの防衛兵器が並べられていた。
見える人影は、それらの大砲やバリスタを扱う兵士や新米傭兵達だ。他にも人間砲台になれる後衛職の面々がいたり、荷運び役を依頼された一部の民間人がいたりと、かなり騒がしい。
「よし、ここの砲弾はこんなもんだな」
運び込んだ木箱の数を数え、一つ頷く。大砲の横で三段重ねになった木箱には十数個ずつ砲弾が詰められているから、乱戦になる前に撃つ分には十分なはずだ。誘爆のリスクを考えたら、後続に向ける分はまた追加で運んだ方がいいし。
「モンスターは……まだ森の中か」
気配は遠くないし、ここは高さもあるから、平原だったら影くらいは見えたんだろう。ただ、時折森の木が倒れるのが見える。ちょうど溢れたと思しきダンジョンがある方向だ。開戦が近いのは間違いない。
「そろそろ戻らないとな」
しばらくやることが無いからこうして荷運びを手伝ってはいたが、そもそも俺を含めた職人達が招集されたのは防衛戦中の装備の修理やバリスタの矢増産のためだ。
スタンピードの中でも今回のように迷宮が溢れて起きるタイプのものは、出現するモンスターの数が桁違いだからな。下手をすれば、何日も戦いが続く。戦力を落とさないためにも、俺たち職人の役目は重要だ。戦いが始まるなら、市壁内にある非常時用の工房に戻らないといけない。
やたらと広い市壁上から降りようと踵を返せば、背後で門の開かれる重たい音がした。騎士と傭兵達が布陣するらしい。たぶん、上位の斥候職の探知範囲に入ったんだろう。各々がモンスターの来る方を睨みながら武器を硬く握っている。
しかし――
「硬いな……」
眼下に漂っているのは迷宮の中にいるような緊張感だ。それが市壁の上まで伝わって、後衛連中や荷運び役まで表情を強張らせていた。
このままだと実力を発揮できるやつがどれだけいるか分からんな。
対応は、俺の考えることではないか。そういうのは指揮官の役目で、ただの鍛冶師が考えることじゃない。
その指揮官は、後ろの方にいるあの赤髪の女騎士だな。聖命会の紋章が刻まれた魔鉄製の鎧となると、教会所属のマジックナイトだろう。なんとなく上位職を一つ極めたころのケイン達より強そうだ。
「おい、あそこ見ろよ。勇者パーティだ」
「さすがのオーラだな。こんだけ人がいてもすぐ分かる」
勇者って言ったら、あの金髪爽やか王子様か。ケインの憧れの。どれどれ。
「……けっこうなペースで鍛えたつもりだったんだがな」
ケイン達より余裕で強いだろ、あれ。マスター職以外は最低限育てきってそうだ。
少し前の素材情報からレベリングをしてるのは分かっていたが、予想以上だ。装備が見合ってないのだけ残念だな。オークションで競り落とされた俺の剣も、もう力不足だ。
「そういや、ケイン達はどこに……」
いたいた。うん、装備も多少は馴染んだらしいな。庭を好きに使わせた甲斐があった。
かなりギリギリになったから多少の不安はあったが、問題無さそうだ。
緊張もしていないな。リリエはともかく、他三人も適度にリラックスできている。これなら実力を発揮できずに乱戦の不意打ちで、なんてことにはならないだろう。
能力で言えば、街の戦力の中では勇者パーティに次ぎそうだ。装備はトータルじゃ一番上等。名声は、最近調子の良いパーティとして話題になってきてるらしい。
やっぱり主人公らしい道を行ってるな、あいつら。
この感じなら俺が目立つようなことにはならないはずだ。
しかし、どうにも肌のひりつくような感覚が強い。モンスターの大群が迫っているにしても、強すぎる。悪魔族がいるからか?
「……まあ、なんとかなるか」
勇者達とケイン達が揃ってるんだからな。条件付きのレアボスさえ来なければ、あいつらだけでもなんとかなる。あとは、悪魔族がどう動くかだが……。
「見えた! モンスターの群れだ!」
と、来たか。
叫んだのは一階分高くなったところにいる見張りの兵士だ。彼の視線を追えば数百メートル先の森の中に桜色がちらちら見える。やっぱり花見ダンジョンか。
正確な規模は、森が邪魔で俺の探知範囲より大きいってことしか分からんな。花見ダンジョンなら一晩は超すと考えるべきだろうが……。
つい癖でモンスターの群れの規模をはかってしまった。ゲームの時とは、メインキャラのときとは違うのに。
こうしている間にもモンスターの群れはどんどん近づいてくる。周囲では兵器担当のやつらが慌ただしく動き、大砲やバリスタを森の中に向けていく。
「間もなく射程に入る! 大砲! 撃ち方用意!」
改めて踵を返し、街へ降りる階段を目指す。
「撃てぇー!」
背後で爆音が重なった。開戦だ。
ここから目立つのは、戦いを生業とするやつら仕事。なら俺も、鍛冶師としての役目を果たしに戻ろう。
後方支援。それが目立たずできる、俺の役目だ。




