第50話 モブサブの装備納品!
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「――出来た。完成だ」
研ぎ終えた剣に刃こぼれも歪みも無いことを確認して、溜め息を吐く。これで、ケイン達に渡す全ての装備を作り終えた。誰も呼びに来なかったということは、開戦には間に合ったらしい。
全てをストレージにしまい、工房の外へ出る。差し込んでくるかと思った眩しい日差しはまだなく、代わりに早朝らしい空気が身を包んだ。熱気の籠もった工房内に比べたら、冷気と言っていいくらいの冷たさだ。
東の方を見れば、うっすらと紫がかった空が見える。もう一時間もしないうちに、日の出を拝めるだろう。
今の肉体ならこのまま起きていても後方支援くらい問題なく熟せるだろうが、何があるか分からない。数時間でも寝ておくべきか。
うん、そうすべきだな。もしかしたら、予備の武具を量産しないといけなくなるかもしれないし。
あくまで鍛冶師として、目立たずに、貢献しよう。そう決めて、自室でひと時ばかり微睡みに身を委ねた。
ざわりと胸の騒ぐ感覚がして目が覚めた。どうやら思ったよりぐっすり眠ってしまったらしい。時計の針は昼に近い時間を指している。
急いで準備しようとベッドから出ると、ちょうどドアをノックする音がしてセフィアが入ってきた。
「あ、アルゴスさん起きたんですね。ケインさん達が来てますよ」
「分かった。すぐ行く」
急いで着替えを済ませ、廊下で待っていたセフィアと合流する。聞けばケイン達は一度早い時間に来たらしいが、俺が寝たばかりと聞いて出直してくれたらしい。
迎撃の準備もあっただろうから先にそれを済ませたんだろうが、手間をかけさせてしまったな。
そういえばスタンピードの気配は……。ああ、もう俺の探知圏内に入ってるな。一時間もあれば街まで来てしまう。さっきのざわつきはこの気配を捉えたからだったか。
「みなさん、お待たせしました」
ケイン達はリビングで待っていた。着慣れた装備に身を包んではいるが、どこかぎこちない。やっぱり緊張してるか。
「悪いな。開戦前に渡さなきゃならないと思ってな」
「僕らは大丈夫ですが、渡さないといけない、ですか?」
「ああ、お前らの新しい装備だ」
四人の目が見開かれた。相当に驚かせてしまったらしいな。
「え、もうできたんですか!?」
「ああ」
「なんというかー、さすがですねー?」
まあ、鍛冶師のスキルだけじゃどうにもならない部分も他の職業のスキルで時短したからな。普通よりかなり早く完成したのは間違いない。
「まずは防具からだな。部屋を貸すから着替えてみてくれ。セフィア、頼む」
「はい。ルカさん、リリエさん、こちらです。お風呂の脱衣所を使いましょう」
「ならケインとカロックはダイニングだな。着替えたらまたここに集合だ」
十分もかからないくらいでリビングに戻ると、女性陣が既に待機していた。ケインの鎧が一番時間掛かるから想定通りだ。
「サイズは、問題無さそうだな。着心地はどうだ」
「部屋着並に良いわ」
「ばっちしですよー」
良かった。レベ上げ用はある程度使い回せるような作りにしていたからな。スキルでサイズは把握していたとはいえ、専門外のローブはずれる可能性もあった。
「それじゃあ性能の説明だ。まずカロックの装備だが、これは潮風草の糸で織った布をノクテリアの実で黒く染めてある」
見た目は忍という職業らしいもの。忍者と言えばで思い浮かべるようなデザインだ。
その戦闘スタイル上装飾は少なめ。ただしあちこちに暗器や薬を忍ばせられるよう隠れた収納が多くなるように作ってある。
「アルゴスさん、ぐっじょぶですー!」
まだ性能の話はしてな、いや、リリエだからな。鼻息荒めでちょっと怖いし、うん、スルーしておくか。
「糸の炎、冷気耐性の他、認識阻害と隠密系スキルへの補正、それから暗闇で全ステータスに追加の補正が入るようになっている。で、これが新しい小太刀。状態異常の成功率を上げる効果がある」
「まさに忍のための装備だな。ステータス補正は、慣れる必要があるが……」
「カロックなら問題ない。次にリリエのローブだ」
彼女のは法衣とか祭服だとかと呼ばれるものに近い形だ。聖職者を意識して白く染め、金糸で大迷宮の門と似た刺繍を施してある。両腕に嵌めてある腕輪は髪と同じ銀色にした。
刺繍にはバフと回復系の効果を高める紋様を隠してあるから、リリエの役割を助けてくれるはずだ。
「スキルの強化のほかは、耐性系に比重を置いてある。炎と冷気の他にも多少の属性耐性があるのと、状態異常からもある程度守ってくれる。それと、ルカと揃いの腕輪はMPの自然回復を高める効果がある」
「いたれりつくせりって感じですねー……。これに武器もあるんですよねー?」
「ああ。リリエのはこの杖だ」
シルエットは短めの錫杖に近い。じゃらじゃら鳴ってはモンスターを引き寄せてしまうから飾りの位置は調整してあるが、それ以外は同じだ。先端が白い輪っか状になっていて、中央に金色の宝玉が据えてある。
「宝玉はセイレーナというモンスターの魔石から作った魔玉だ。詠唱がいるスキルの効果を高める」
「魔法や詩歌の類いですねー。貴族の家宝になっていてもおかしくなさそうな性能ですよー?」
「そうなのか? まあそのうち珍しくなくなる。次はルカだな」
ルカのローブは元の色を活かしたデザインだ。明るさの違う青を組み合わせたシンプルなもので、革のベルトポーチが良いアクセントになってくれていた。基調の青を暗めにしたから、彼女の髪や瞳もよく映える。
「属性耐性はリリエのローブと同じだ。加えて精霊との親和性を高める効果と、魔法威力が増加する効果を付与してある。さっき言ったように、腕輪はMPの自然回復量を増加させる。で、これがルカの杖だ」
こっちは長杖。先端には銀色の三日月に似せた台座があって、青い魔玉を支えている。リリエの杖を太陽にして、ルカの杖を月にしたら良い感じに統一感が出るかと思ってデザインしてみた。ルカとルナになったのは偶然だ。
「サーペルムの魔石を使った。効果は氷と水の魔法効果に大補正だ。おまけ程度には他の属性も強化される」
「氷と水……。私の得意な属性ね」
「ああ。よく使ってる印象だったからな。上手く使ってくれ」
雷も入れるか迷ったが、現状の素材じゃ中途半端な効果になってしまうからな。
「ケインさん、ルカさんに感想をどうぞー!」
「えっ!? えっと……」
リリエのやつ、こんな時まで。まあ、ルカもちょっと期待した様子が見えるし、これくらいは別にいいか。まだ時間にも余裕があるしな。
「その、いいと思う」
「ふ、ふーん、そう……」
リリエ、不満があるのは分かるがそう膨れずルカを見てみろ。口の端が上がりそうなのを必死に抑えてるだろ。まったく、若いってのは眩しいな。
それはいいとして、最後はケインだな。ある意味じゃ、今回のメインと言っていい。
「まず鎧だが、サーペルムの革の表面を特殊な加工をした魔銀でコーティングした。使い心地は革鎧だが、これで金属鎧扱いになる」
魔銀でコーティングと言っても、銀ぴかにはしていない。タンクとして戦闘中に目立つのはむしろ歓迎だが、迷宮探索の移動中はダメだからな。
とはいえ聖騎士らしさも必要。ということでシルエットは騎士鎧に近くしてある。時間が無かったから装飾はあまりないが、こうして見ると十分にそれらしい。
「金属鎧扱い……。つまり、聖騎士のパッシブスキルが発動するんですね」
「そういうことだ。効果は魔力を使った攻撃によるダメージの軽減と状態異常耐性の増加。どっちもある程度だから過信はするなよ。
魔力を使った攻撃というのは、他三人の属性耐性よりもより広範囲に当てはまる表現だ。適用範囲が広くなる分軽減率は落ちるにしても、聖騎士系統の耐久力なら問題ない。むしろ属性の無い攻撃まで軽減できることの方が、盾役として重要だ。
「剣はこれだ。ワイバーンの牙といくつかの金属を合わせた合成金属製のロングソード。素材の特性状魔力の通りが良く、切りつけた相手の攻撃力を奪う効果もある。刃に刻んである文字みたいなのがその『付与刻印』だな」
「これって『付与刻印』なんですね。かっこいいし、装飾かと思いました」
「確かにそう見えるな。万が一そこが欠けたらただ魔力を乗せやすいだけの剣になるから気を付けろ。修理はしてやれるが」
十分なような、って、それならもっと適した素材があるんだ。攻撃力低下の効果がないなら適正階層が十は下がる。
「私も今初めて拝見しましたが、どれもこれも、一級品なんて言葉では言い表せない装備ですね……。まだうちで扱うのは怖いレベルです」
「セフィアさんもそう思いますか……。こんなの、本当に貰っていいんですかって感じです」
「当たり前だろう。ほとんどお前らがとってきた素材だしな。気になるなら、多少の技術料くらいは受け取るが」
正直俺の鍛冶師レベルなら片手間で作れる程度のものだから、技術料も大して必要ないくらいだ。しかしそれじゃあ他の鍛冶師達を殺しかねない。仮に受け取るなら、それなりに請求することになってしまうな。
「本当に、ありがとうございます。これでスタンピードでも安心して戦えます!」
「待て待て。何もう終わったみたな空気出してるんだ。まだ目玉が残ってるだろう」
「目玉?」
何首を傾げてるんだか。昨日自分たちが何をしたのか忘れたのか?
「ほら、ケイン、お前の盾だ」
その場の全員が息を呑むのが分かった。五対の視線が一点に注がれる。それらの先にあるのは七色の宝石と見紛うような大楯だ。つや消しはしてあるから無意味に光を反射することはないが、それでも十分な存在感を放っていた。
「凄い……」
呟きはケインの口から漏れ出たもの。彼の両手が伸ばされようとして、止まる。
「受け取れ。お前のために作った」
「……はい」
ケインの喉がゴクリと鳴るのが聞こえた。まだ性能の説明はしていないが、この盾の持つ力を肌で感じたようだ。実際、想定よりずっと強力なものになった。あの謎の現象のせいだが、想像以上だ。
「思ったより、ずっと軽いです。それに、なんだか力が湧いてくるような……」
「気のせいじゃない。STR、VIT、MIDに髙補正がかかるからな」
つまりは物理攻撃力と物魔両方の耐久力の超強化だ。厳密にはSTRは筋力のステータスだから、押し合いになったときなんかにも恩恵がある。
「加えて魔力攻撃への髙耐性を持ち、精霊を味方に付けやすくする。物理的な強度もそこらの金属が足下にも及ばない程度にはあるから、安心して頼ってくれ」
「ありがとう、ございます。でも、なんか、それだけじゃない感じが……」
ほう、気が付いたか。ケインに合わせて作ったとはいえ、これはこいつの才があってこそだな。
「聞いて驚くなよ? その盾には、エレメンタートルの切り札を疑似再現する能力がある。属性ダメージの蓄積は必要だがな」
「え、あれをですか!?」
それこそがユグロトのロゴを『付与刻印』で刻んだ結果生じたぶっこわれ効果だ。ステータス補正なんてただのおまけ。限定的にとはいえ、あのエレメンタルバーストを使えることに比べたら誤差の範囲でしかない。
「これは、何階層まで通用する代物なんだ……?」
「そうだな、百二十階層ってところだ」
「ひゃっ……!?」
元々この盾は他の装備に比べても強力なものにするつもりだった。それでも百階層だ。百二十階層となると、下手をすればバージョンの数字が一つ増えるレベルの差がある。
「凄いですねー。百二十って、今の最高到達点の倍ですよ-?」
「ですね。国宝クラスですよ。売り物になんてできません」
「ああ。だが、これでも百二十なのか……」
カロックはどうやら他の三人より先を見ているらしい。
「焦るな。一歩一歩だぞ、カロック」
「そう、だな」
ともかくこれで、今回作った装備は全て渡した。
「アルゴスさん、ありがとうございます。この装備で、絶対、ミラディスを守ってみせます!」
「ミラディスもだが、お前らの命もだぞ」
「はい!」
よし、これで後は、モンスターどもと悪魔族を迎え討つだけだ。




