春の日
来ていただいてありがとうございます!
「お嬢様、お美しいですよ」
「ありがとう、サーラ」
春の花の演奏会も無事に終わり、花も緑も盛りを迎え、精霊様達は元気に聖地を飛び回り、花の聖地の街にもシュクシュケヴァット王国にも穏やかな時が流れてる。
「良いお天気でようございましたね」
「本当にそうね……」
今日はラーシュ様と私の結婚式の日。あの事件を思うとこの日が無事に迎えられたことが奇跡みたい。
「さあ、参りましょう。グラソン様がお待ちかねですよ」
「ええ、ありがとうサーラ」
少し涙ぐんでるサーラに手を引いてもらって廊下を歩いた。私ももらい泣きしそう……。
私は今、花の聖地の街にある、精霊の聖堂と呼ばれる場所の一室にいる。精霊の聖堂は白い塔がくっついてる小さな可愛らしい建物で、湖の畔の緑の木々の中にある。
扉を開けてもらうと、広いホールの中、両家の家族と近しい親戚、そして友人達、聖地の音楽隊の仲間達が拍手で迎えてくれた。柔らかな光が降り注ぐ聖堂の中で、この日の為につくってもらったドレスを身にまとい、ラーシュ様の元へ歩いた。胸元には深き森の一葉。小指には星の指輪。お揃いのブローチを付けた私達は天窓から光が降り注ぐ祭壇の前に二人で向かい合った。
「ああリファーナ、とても綺麗だ……」
「ありがとうございます」
二人で手を繋ぎ祭壇に向き合う。天窓から降り注ぐ光の前で永遠を誓う言葉を交わした。演奏会で歌う時と同じくらい緊張したけど、この誓いの言葉は一人で一生懸命練習したから大丈夫だった。短いけれど厳かな儀式。後は婚姻の誓約書にラーシュ様と二人でサインをして終わり、そしてその後は花の宮で音楽隊のみんなが主催をしてくれる結婚のお祝いのパーティーに移る。そのはずだった。
突然差し込む光が強まり、大きな光の球体がいくつも現れた。
「これは……!」
参列してくれたみんなの驚く声に呼応するかのように光は強まり人の姿を取り始める。
「精霊王様……!」
「大精霊達がこんなに……星の聖地の時みたいだ」
私もラーシュ様も凄く驚いた。先の演奏会にも大精霊様達が姿を見せてくれていたけど、その時は何も言ってなかったわ。こんな……。
我らの花の歌姫と花の奏者の婚姻に祝いの言葉を伝えにきた
「私も招待状をいただいていたから、来てしまいました」
「エミリア様?!」
精霊王様の後ろから顔をのぞかせて出ていらしたのはエミリア様だった。エミリア様は精霊王様と並んで腕を組んで、優しく微笑んでいらっしゃる。またお会いできて嬉しい……!エミリア様、覚えていてきてくださったのね。あれ?そういえばまた更に若返ってるみたい?時の聖地ってそういう所なのかしら。
「精霊の歌姫様……」
「精霊王様が……」
「凄い!大精霊様達があんなにお揃いに……!!」
どよめく参列者の皆さん。当然だわ……。普段の演奏会でもこんなに沢山の大精霊様が一斉にお姿をみせるなんて滅多に無い。ましてやこんなに近くに精霊王様がいらっしゃるんだもの。それにしても、ま、眩しいわ!まるでお日様の光の中にいるみたい。
愛する二人の遥かなる時に永久の祝福を
永久の祝福を
精霊王様の言葉に大精霊様達が唱和した。
「リファーナさん。とても綺麗よ。お二人ともおめでとう。お幸せにね」
「僕達の門出をお祝いくださってありがとうございます」
ラーシュ様が丁寧にお辞儀をしたから、私も一緒に頭を下げた。
「精霊王様、エミリア様、大精霊の皆様、ありがとうございます」
小さな聖堂の中が光と拍手でいっぱいになる。
「こんなにたくさんお祝いをしてもらえるなんて、私幸せです、ラーシュ様」
「うん。僕は生涯この日を忘れないよ、リファーナ」
「はい!私もです」
私達は笑い合った。ラーシュ様の深い緑の瞳が潤んで、まるで深き森の一葉のように綺麗だった。
やがて精霊王様とエミリア様の光が去り、次々と大精霊様達もその姿を消していった。最後に残った雪の大精霊様は嬉しそうに微笑んで
これからも素敵な歌と音を聞かせてね
そう伝えて真っ白な光となって去って行った。
この日の青空には王国中から見える大きな虹がかかり続け、たくさんの花が降り注いだと後から聞いた。
お祝いのパーティーはとても賑やかだった、普段は練習で使ってる一番大きな部屋にはお花がたくさん飾られていて、グラソン侯爵家とスティーリア伯爵家からたくさんの料理やお酒やお菓子が差し入れられた。普段あまりお酒を飲まない人達もお酒を飲んだり歌ったり。楽器を奏でる人もいて、とても楽しい時間だった。
パーティーがお開きになった夜、ラーシュ様と私は新居の屋敷に戻った。私達の新しい家は聖地のほど近い湖の畔にある森の中にある。グラソン侯爵家の別邸にそのまま住んでもいいって言ってもらえたんだけど、ラーシュ様と相談して、こちらのお屋敷に住むことにしたの。ここは街中にあった別邸と違ってとても静かな場所。森の中には精霊様達がたくさん飛び交ってる。
結婚式のドレスから着替えて一息ついた。サーラとヒースコートさんは明日の朝にまたこちらへ来てくれるって言ってたっけ。二人きり……ちょっと緊張してきちゃった。
新しい家の居間でラーシュ様が窓辺に佇んでる。そっと近づいて腕を組んでみた。
「今日はお疲れ様、リファーナ」
「ラーシュ様もお疲れさまでした。みんな大騒ぎでしたね……」
「うん。みんな良い人達ばかりだ」
「お姉様はずっとつまらなそうでしたけどね」
「そういえばそうだったね」
二人で笑い合う。
沈黙がおりてしばらくの間、二人で森の中をふわふわと舞う光を見ていた。
「ラーシュ様、これからも末永くよろしくお願いします」
「うん。やっとだ。やっと僕だけのリファーナだ。覚悟してね。これまでもこれからもずっと一緒だよ」
「はい。私、ラーシュ様とずっと一緒で嬉しいです」
「あ、でも歌の練習はやっぱり少しお手柔らかにお願いします」
相変わらず音楽に関してはラーシュ様はとても厳しいのよね……。結婚式が近くても春の花の演奏会の練習では一切手を抜いてくれなかったもの。
「あ、それはお手柔らかにしない」
「……そうなんだ……」
やっぱり、駄目か……。
「それからそれ以外もね」
「え?」
問いかける間もなく口づけが降りてきた。深くなっていく口づけにクラクラしてくる。
「言ったよね?覚悟してって」
口づけの合間に囁かれる言葉は耳に届くけれど、頭に入ってこない。そのまま崩れそうになる私をラーシュ様はそっと抱き上げた。
…………その夜は一睡もできなくて、サーラがやって来たのは昼過ぎだった。
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