星柳
来ていただいてありがとうございます!
「今年は見られましたね。満開の星柳」
夕暮れの森の一角に、白くて小さな花がたくさん咲いている場所がある。以前にラーシュ様と街の植物園で満開のこの花を一緒に見たことがある。昨年は忙しかったのと、花の満開の時期が少しずれてしまっていたのとで、見逃してしまっていた星柳。見つけたのは偶然だった。
「ここに星柳が群生していたんだね」
結婚してからラーシュ様と一緒に森を散歩することが時々あった。その時にラーシュ様が星柳の樹形を覚えていて見つけてくれていたの。
木々の間にぽつんと開いた小さな広場。そこを囲むように白い花々を咲かせる一帯があって、周囲には精霊様達が飛び回り、木々の向こうには青く輝く聖地の湖が見える。
「綺麗ですね……」
「うん。本当に」
「これからは毎年二人でお花見できますね」
「そうだね」
手を繋いで寄り添いあいながら二人で無数の白い花を見つめてた。
「そういえばお姉様からお手紙が来ました」
「へえ、珍しいね。なんて?」
「フローリア公爵様が落ち込んでらっしゃるそうです」
「……どうでもいいような気もするけど、一応義兄だから聞いてみるよ。どうして?」
「ラーシュ様ったら……」
でもお姉様も鬱陶しいから何とかして欲しいって書いてよこしたのよね。なんだかんだあの二人は一緒に過ごすことが多いみたいなの。
「その……エミリア様が時の聖地へ行ってしまったからだそうです」
「……あの方は本当に「精霊の歌姫」が好きだったんだね。はあ……。これからはもっとリファーナに執着してきそうだな……」
ラーシュ様が露骨に嫌そうな顔をしたから、思わず笑ってしまった。
「笑い事じゃないよ。全く……」
「きっと、大丈夫ですよ。もうすぐ私の他にも新しい精霊の歌姫が現れると思います」
「それって予言?」
少し驚いたようにラーシュ様は私を見つめた。
「いいえ、何となくの予感です」
この前、街でこの春にスモールウッド学園に入学したらしい子達を見かけたの。男女の二人組でとても似ているからもしかしたら双子かもしれない。その子達の周りに精霊様達が興味深そうに飛んでいた。それだけなんだけど、たぶん、きっと。ラーシュ様も瞳を輝かせて私の話を聞いてる。
「選抜チームの時にそんな双子は見かけなかったから、外国から入学してきたんだね。歌や楽器をやってるのかな。次の試験を受けるだろうか?」
「どうでしょうか……」
もしも二人が歌を歌うなら歌姫と歌い手が誕生するかもしれない。
「リファーナのおかげで花の聖地の音楽隊への受験の問い合わせがかなり増えて来たらしい。隊長がほくほくしてたよ」
「それをいうなら、ラーシュ様のおかげでご婦人方からの寄付金が増えたって事務員さんがとても喜んでましたよ」
私達は顔を見合わせて笑いあった。きっともうすぐ他の聖地にも負けないくらい賑やかで大きな音楽隊になっていくんじゃないかって思う。そんな未来がとても待ち遠しい。
「楽しみだね」
「はい。とても楽しみです!」
「そうだ。手紙と言えば、招待状が来てたでしょ」
「はい。闇の聖地から。夏至の演奏会への招待でしたよね」
ハリエット様からも詳細は手紙で聞いていた。闇の聖地は光や夜、太陽や月の精霊様に関する演奏会が多いの。今回は闇の聖地の音楽団の正式結成百周年記念の演奏会が開催されるんですって!
「あれね、隊長が予定を調整してくれたから行けそうだよ」
「そうなんですか?嬉しいです!」
久しぶりにハリエット様にお会いできるのね。星の聖地の方もお招きするみたいだから、もしかしたらクララ様やパンジー様にもお会いできるかも……!
「水の精霊を讃える演奏会が終わったら、すぐに出発になる」
「ちょっと大変ですけど、練習、頑張ります!」
「風の精霊を讃える演奏会もあるし、忙しくなるね」
「はい!」
私は両手をぎゅっと握りしめた。楽しい忙しさは楽しいから大好き!ああ、私何言ってるんだろう……。
「気合入ってるね」
ラーシュ様はくすっと笑った。
「今年は王城からも演奏会の依頼を受けてるし、練習する曲が多い。屋敷へ帰ったら早速練習開始だね」
「う、できればお手柔らかに……」
「駄目」
「……うう」
ラーシュ様はクスクス笑いながら私の肩を抱き寄せた。
「リファーナの困り顔は可愛いね」
そしてそのまま唇が重なった。
「……っ、は、ぁ……」
「歌の練習も大事だけど、僕の事もちゃんと構ってよね。新婚なんだから」
「……ラーシュ様……、でも、あんまり体力を消耗するのは……」
また口を塞がれた。
「……ん……できればほどほどに……」
「……駄目。っていうか無理」
無理なんだ……。私も、嫌じゃないからちょっと困る……。
「ずっと、ずっと我慢してたからね」
「ずっと?」
ラーシュ様に強く抱きしめられて、苦しいくらいに幸せを感じる。
「そうだね、もう十年くらい?」
「……十年前にはまだお会いしてませんよ?」
「冗談だよ。でもそのくらい長く感じてたかな……」
ラーシュ様はもしかしたら……。尋ねてみようかと思ったけれど何となくやめた。
「さあ、帰ろう。サーラもアレンも待ってる」
「はい。ラーシュ様」
再び手を繋いで森の中を歩く。私達の家へ。
風の精霊様達が白い花を揺らしていく。満開を迎えた白い花々が一斉に散って雪みたい。あの雪の日を思い出す。雪と精霊様達の光を。私の運命を変えてくれたあの日。
こんなに幸せな時間をくれた精霊様に感謝を捧げながら、大好きな人の隣で生きていく。
ここは精霊様達に護られた地。
終
ここまでお読みいただいてありがとうございました!
この物語はここで完結となります。少しでも楽しんでいただけましたら幸せです。
ブックマークや評価、たくさんのいいねをありがとうございました!とても励みになりました!
後日談を書くかもしれませんが、ここで完結とさせていただきます。
ありがとうございました!




