呪い
来ていただいてありがとうございます!
※ラーシュ視点が入ります
「嫌な夢だった……」
朝起きようとしたら体が重い。頭がぼんやりして思考がまとまらない。寝たのにずっと歩いていたみたいで疲れが取れてない。きっと変な夢を見たせいね。
「……精霊様?……」
精霊様が部屋の中を飛んでる。どうしたのかしら、なんだか困ってるみたい?
「リファーナ様、おはようございます。……どうかなさいましたか?」
私を見たサーラから笑顔が消えた。
「少し頭がぼーっとするの」
私は笑って答えたんだけど、サーラの表情が厳しいものになった。
「……いけませんわ!」
「サーラ?」
部屋を出て行っちゃったわ……。私は仕方なく着替えるためにベッドから起き上が……れなかった。
「リファーナ!具合が悪いんだって?」
「ラ、ラーシュ様?」
ラーシュ様が部屋へ飛び込んできて、あっという間にまたベッドに寝かしつけられてしまった。
「あ、あの、私、大丈夫ですから……」
「アレン、今日の練習は休むって伝えて来てくれる?」
「かしこまりました」
「すぐに治療師を呼んでまいりますわ!」
「うん、サーラ、頼むよ」
ヒースコートさんとサーラが部屋を走って出て行ってしまった。
「あの、ラーシュ様、ちょっと大袈裟です!寝起きで少しぼんやりしてるだけで……わわ……」
ラーシュ様の顔が物凄い至近距離に……!おでこで熱を計ってる!
「ああ、やっぱり少し熱いみたいだ」
え?そうなの?自覚すると確かに少し体がだるい感じがする。
「とにかく、今日は絶対安静だよ!」
「で、でも」
本当に大したことないのに。
「駄目だ!!」
「はい」
ラーシュ様ってば過保護すぎだわ。そう思ってたの。この時は。
でも私はこの日を境にベッドから起き上がれなくなってしまった。
「リファーナ……」
ずっと黒い影に追いかけられる夢を見て、目を覚ますとラーシュ様やサーラが心配そうに私を見てる。大丈夫ですって言いたいのに声が出ない。苦しい。全身を細い糸でぐるぐると巻かれているよう。締め付けられて少し緩んでまた締め付けられて。自分の体が自分のじゃないみたい。熱はそんなに高く無いのに、とにかく体がだるいの。眠ってあの夢を見て起きるたびに少しづつ体が重くなっていく。
ベッドサイドにある宝石箱が目に入る。眠るときには邪魔かもしれないけれど、私は小指に指輪をはめた。冷たくて気持ちいい。ラーシュ様にいただいた髪飾りやネックレスを見て幸せな気持ちになる。あ、ハリエット様から頂いた白い守り石……。いつもポケットに入れてたのに忘れてた。私は白い守り石を握り締めた。こうすると少しだけ苦しいのがやわらいだ気がする。落ちるように意識が遠のく。眠りたくないわ……。
「おいで」って呼ばないで。怖い。こっちへ来ないで。
闇の中を私は歩いていく。
温かな部屋のベッドの中にいるはずなのに、とても寒い。熱が上がってきたのかしら。私、これからどうなっちゃうの?ふいに頬に冷たいものが当たった。
「ゆき……!ええ?!雪?」
はっきりと意識が覚醒する。部屋の中じゃない。切りつけるような冷気。
「ここはどこ?なんで私外にいるの?!」
自分の少しかすれた声が耳に届く。辺りはしんと静まり返って誰もいない。薄暗い。今は夕方?それとも夜明け前?
周囲を見回してゾッとする。
「う、嘘……」
ここは……塔の上だ。精霊様達が心配そうに周りを飛んでいる。そして、雪が降ってる……。大丈夫、大丈夫よ。まだ結婚式の前日じゃないわ。でもすぐに帰らなきゃ。温かいお屋敷へ。ラーシュ様の所へ。訳がわからないけれど、とにかくここにいては駄目だわ。私はもつれそうになる足を必死で動かした。
振り返った先には、黒い影。どこかで見たような黒。人の形をしたその影はゆらりと近づいてくる。塔の中に入る扉はその黒い影の向こうなのに……。
『何故まだ生きている?』
黒い影がしゃべった……?
『消えろと願ったのに』
近づいてくる……。
『お前ばかり……』
一歩ずつ後退りしてしまう。
『許さない』
このままだと塔のへりから落ちてしまう。
『お前よりずっと……』
黒い手が伸びてくる……!
「いやっ!!」
私は手の中の石を胸の前で握りしめた。
『!』
弾かれたように黒い手が本体に戻ってく。今だわ!私は黒い影を躱して扉の方へ走ろうとした。でも駄目だった。寒くて足に力が入らなくて転んでしまったの。精霊様達が心配して集まって来てくれてる。
「ありがとう。大丈夫よ」
なんとか立ち上がったけど、また黒い影に行先を塞がれてしまった。
『来い……』
黒い手がすうっと上にのびる。私の周りにいた精霊様達が硬直したように動きを止めた。何?何が起こってるの?ふらふらと黒い影の前に並ぶ精霊様達。
「やめて……嫌がってるわ……」
『行け』
黒い手が私を指差すと、精霊様達が一斉に私に飛びかかって来た。風が吹いて黒い影が一瞬晴れる。その下にあったのは……。
「もうやめて……精霊様にこんな酷いことをさせないで……ロッティー様……」
蘇ってくる記憶。思い出したくなかった事。あの時、前の時、私を塔から突き落としたのも……あなただった。
追い詰められてバランスを崩した私の体は宙に投げ出された。
「ラーシュ様、少しはお休みになりませんと」
アレンの言葉は耳に届いてるけれど、僕はリファーナから目を離したくなかった。
「貴方が倒れてしまっては元も子もありませんよ」
「今度こそ絶対にリファーナを守りたいんだ」
小指の指輪……。こんな時にもつけてくれてるんだな。愛しさがこみあげて握ったその小さな手に口付けた。
「ラーシュ様はいつでも全身全霊でリファーナ様を守ってらっしゃいますよ。時には過保護なほどに」
アレンは少し笑った後、真面目な表情に戻った。
「お客様がおいでになっております」
「客?」
「はい。フローリア公爵様です」
「先ふれも無しにか……。仕方ないな……」
僕はため息をついた。
「今、サーラは厨房でリファーナ様の幼い頃の好物のプティングをこしらえております。私がこの部屋の前で番をしておりますゆえ、ご安心ください」
「そうか。それならリファーナもたくさん食べられるかもしれないな……。あとは頼む」
「かしこまりました」
僕は後ろ髪を引かれながらも、不安な気持ちを振り払ってリファーナの部屋を後にした。
フローリア公爵の話を聞いた僕は血の気が引いた。彼を放置してリファーナの部屋へ急いで戻った。でもリファーナの姿はもうそこにはなかった。
雪が降り始めていた。
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