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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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もう一つの記憶①

来ていただいてありがとうございます!


※ラーシュ視点があります



「リファーナッ!!」


手首が痛い。落ちていかない……?手首が誰かに掴まれてる。精霊様達の光が照らす中に見えたのは……。

「ラーシュ様……?」

私もラーシュ様の手を掴みたいけど体に力が入らない。

「ラーシュ様……手を離して……」

このままじゃラーシュ様まで落ちてしまうわ。

「駄目だ!!リファーナ!今度は助ける!」


ああ、思い出した。この感覚は……あの時私の手を掴んでくれたのは……


塔のへりから身を乗り出して私の手を掴んだラーシュ様の顔は苦しそう。私に外壁をよじ登る体力は無く、ラーシュ様の手からは次第に力が抜けて、ついに私は塔の壁に沿うように再び落ちていく。ラーシュ様は躊躇わなかった。全く躊躇せずに塔のヘリを蹴って飛び降りてきた。私の頭を庇って抱きしめて一緒に湖へ落ちていく。


ああ、まきこんでしまった……。そして

「ラーシュ様だったのね……」

小さく呟く。再び蘇る記憶。あの冷たい水の中で動けなくなってしまった私の手を掴んでくれたのは、あなただった。顔を見た訳じゃないし、確認する術もないけど、ただ「わかった」。どうしてあの時あの場所に?とか何故今ここにいるの?そんなことを考えながら冷たい衝撃を待った。


でもいつまで経っても水面に打ち付けられることはなかった。

「え?!」

ラーシュ様の驚く声に目を開けた。前のあの時のように私は、私達は、光の中にいた。温かく大きな腕の中に包まれているみたい。

「精霊王様……?」

「僕達を助けてくれたのか……」

以前、精霊祭に現れた大きな存在がラーシュ様と私を両腕に抱えて塔の上へ運んでくれた。




「抵抗するなっ!!」

「離して!」

「もう逃げられないぞ!」

「全てわかっているんだ!」

複数の怒号が聞こえる。

「離して!離しなさいっ!!触らないで!」

降りしきる雪の中、男の人達の声とロッティー様の声が花の聖地の塔に響く。


「君達!無事だったか!良かった」

塔の上にいたのはフローリア公爵様とお城の兵士さん達のようだった。フローリア公爵様は精霊王様を眩し気に見上げてる。

「あなたが二人を助けてくださったのか……」

「フローリア公爵様!犯人はっ!」

ラーシュ様が精霊王様の腕から塔へ飛び降りた。

「ああ、取り押さえたよ。呪法も封じた。どうやらこの黒い宝石が呪物だったようだね」

フローリア公爵様の手の中にはロッティー様のネックレスと指輪が握られてた。闇の中、兵士さんが持った松明がフローリア公爵様や、取り押さえられて塔の屋上の床に伏せられたロッティー様を照らしている。


「リファーナ、もう大丈夫だよ。君を苦しめていたのは病じゃなくて呪法だったんだ」

ラーシュ様が振り返り私に手を伸ばした。私も手を伸ばすけれど届かない。それどころかゆっくりラーシュ様が遠くなっていく。

「ラーシュ様……」

「リファーナ……?」

ラーシュ様の顔が驚愕にゆがむ。


「リファーナ!お待ちください、精霊王!!彼女をどうするつもりなのです?」

駆け寄って来るラーシュ様がどんどん遠くなるのに、私の体は動かない。精霊王様の腕に抱きかかえられて意識が遠のいていく。



再び我が同胞を苦しめたこと、許し難い



精霊王様は取り押さえられたロッティー様を見てる。びくりと体を震わすロッティー様。周囲の兵士さん達も顔がこわばってるように見える。押さえつけられたように誰一人その場から動けない。

「ごめんなさい……精霊様達……」

苦しめてしまった……。嫌なことをさせてしまった……。ロッティー様から解放された精霊様達は怯えるように飛び去ってしまった。


「どうやら僕達は精霊王の怒りを買ってしまったようだね……」

フローリア公爵様の顔に汗が浮かんでる。

「まさか、このままリファーナを連れて行くつもりなのか……?待ってくれ!罰を与えるなら僕に……!」

ラーシュ様、それ以上進んだらまた塔から湖に落ちてしまう……。危ないって言いたいのに言葉が出ない。


「リファーナっ!!!」


手を伸ばしたラーシュ様の前に真っ白なあの美しい大精霊が立ちはだかる。雪と風が行く手を阻んだ。


「何故だ!僕の願いを…………」


私の意識はそこで光に包まれた。

















最初は断片的な記憶だった。あの受験の時にあの大精霊に会うまでは、僕は奇妙な夢だと思っていたんだ。もう一度人生をやり直しているなんてあり得ないと思っていた。



一度目の時、彼女との婚約を不満に思ったことは無かった。ただあまり女性というものに興味が持てなかっただけだった。彼女とはいずれ結婚して長い時を共にするのだから、婚約したての頃からそこまで交流を持たなくてもいいと思ってた。


実際僕は様々な知識を求める事に夢中だったし、父や兄の仕事の手伝いをできるようになりたいし、母が熱心だった音楽も頑張りたくて時間が足りなかったんだ。だから一度目の時は婚約者からの誘いを断ることが多かった。たまに会っても彼女とは話が合わなかったし正直退屈だった。


大人しくて、控えめで、引っ込み思案。何かに夢中になることも、自分の才能を活かし伸ばすこともしない。それが彼女の生来の性格だとずっと思っていた。




ある日、やけに馴れ馴れしく彼女の姉が話しかけてきた。婚約者の姉。それだけの存在だった人は僕より一つ年上の先輩で周囲からは美人で優秀だと言われていた。外見の好みだけでいえばタイプじゃなかった。強気そうな美人。そんな印象だった。

「妹は貴方との婚約を本当は嫌がっているんです」

相談の体を装ってかけられた言葉は到底信じられるものじゃなかった。頻度こそかなり落ちたけれど婚約者からの丁寧な手紙は変わらず送られてきていたから。



それから何度か彼女の姉は僕に話しかけてきた。自分を婚約者に選んでもらえないかと。彼女の才能は素晴らしいと思っていたが、それだけだった。それに彼女が自分を嫌っているなんて信じてはいなかった。だからあの時、伯爵家に呼び出された僕は愚かな賭けにのってしまったんだ。


「あの子が貴方との婚約解消を了承したら、私を婚約者に選んでくださいね」


姉が最近婚約解消をした話は聞いていた。焦っているのだと思ったけれど、まさか妹の婚約者にそんなことを言うとは思わなかった。驚いたが僕には謎の自信があったんだ。子どものような自信。ずっと婚約者同士だった彼女がそんなことを望むはずは無いと。だけど、忙しい僕とは対照的に才能があるのにそこを伸ばそうとはしない婚約者の覇気の無さが癇に障っていたこともあって、わざと冷たい言い方をしてしまった。彼女と話をして彼女の家庭環境を知っていれば、彼女が全てを諦めさせられていたことが分かったはずなのに。


「僕はどちらでも構わない。ただ向上心という点では君はもう少し姉上を見習った方がいい。もう少し頑張りたまえ。僕はお互いに高めあえるような夫婦になりたいんだ」

僕は傲慢にもそう言おうとしていたんだ。言葉は途中で途切れたけれど。


彼女の答えは笑顔だった。僕は彼女のあんな笑顔を見たことが無かったとその時初めて気が付いた。彼女は笑ったことが無い。いやあったのかもしれないけれど覚えてないんだ。


「わかりました!私はそれで構いません!」

そう言って本当にあっけなく彼女は僕の前から去って行った。ショックだった。あっさりと僕を捨てた彼女に追いすがることもできずに、本当に嫌われていたのだと思い知らされて、姉との約束通りに婚約を結び直すしかなかった。


彼女にはすぐに次の縁談が来た。相手は彼女より年上の氷の公爵と呼ばれる気難しい男だった。卒業と同時に結婚するらしい。彼女の姉との結婚は理由をつけて先延ばしにしていたが、義妹となる予定の彼女の結婚式には僕も招待されていた。貴族の結婚式は王都か花の聖地にほど近い聖堂で執り行われるのが慣例だ。今回は聖地の方だった。


前夜、僕はイライラして眠れず別邸を出て湖の近くを歩いていた。塔の上から歌声が聞こえてくる。すぐに彼女だと分かった。声をかけたい。結婚を止めたい衝動にかられた。でも、自分には何も言う権利が無かった。姉と婚約をむずび直してから分かった。彼女の意思はあの酷い家族によって曲げられ、抑圧されてきたのだと。でももうすべてが遅かった。せめて彼女の歌声を心に留めておこうと思った。でも次の瞬間信じられないものを目の当たりにしたんだ。


飛び降りた……?


何故?何故?なぜだ?嫌だったのか?そんなに嫌だったのか?明日の結婚式に絶望していた?僕は迷わず冷たい湖に飛び込んだ。この手は確かに彼女を掴んだのに救うことは出来なかった。彼女も自分も。





そして時は巻き戻る。僕の記憶を真っ白に戻して。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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