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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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不穏

来ていただいてありがとうございます!




「この感じ……なんだか変だわ」

「リファーナもそう思う?」

「ラーシュ様もですか?空気が重いというか、ザワザワしているというか……」

「うん。それにピリピリしてる気がするよ」



秋の精霊祭。精霊様達の加護に感謝をしてその年の収穫を祝うお祭り。私とラーシュ様はその開会式を客席で見ていたの。

「今年が最後だったのに残念だったね、リファーナ」

「はい。でも星の聖地へ行けたことはとても勉強になりましたし、良かったと思ってます」

来年は招待されないかもしれないし、星の聖地や闇の聖地や時の聖地の事について少しでも知ることができて、歌姫様達と仲良くなれたのはとても嬉しいことだった。もう手紙のやり取りも何度かしているの。


でもそのために今回の精霊祭の開会式への参加は辞退することになった。だからせめて客席で見たいと思って、聖地の音楽隊の方のスケジュールを調整してもらった。演奏はとても素晴らしかったけど、何かがおかしいと感じた。歌の途中で精霊様達が現れた。もちろんそれは精霊様達が歌や演奏を気に入ってくださったからなんだろうけれど、私には精霊様達の感情が感じられなかったの。


「あれはリータ子爵令嬢だね」

「はい」

ひときわたくさんの精霊様が集まってる場所がある。それがロッティー様の立っている場所だった。ロッティー様はたくさん練習して精霊様達に認めてもらえたんだって喜んだけど、集まった精霊様達から感じる気持ちは「無」だった。それどころか演奏が進むにつれてこの講堂の周囲の空気が重苦しくなっていったの。


演奏が終わると拍手が響いた。みんなは気が付いてないみたい。精霊様達が現れたことに驚いて、ロッティー様を賞賛する声が聞こえてくる。「あの生徒は誰だ?」「新たな精霊の歌姫の誕生なのでは?」そんな声が。




拍手の音を打ち消すような音が聞こえ出した。

「え?雨?」

「本当だ。雨の音だ……!」

建物の屋根を打ちつけるように、激しい雨が降り始めた。そんな……この王国でこの時期に雨が降ることは滅多にない。ましてや建物の中にいても雨音が聞こえてくるような大雨なんて……。


雨は次第に弱まりこそしたものの、三日間の精霊祭の間中降り続いた。雨の中で精霊祭を迎えた記憶は前の時からも無いと思う。前後で弱い雨が降ったとしてもその三日間は晴れていた記憶しかない。本当に珍しいことだった。


結局、人出は激減してしまい、今年は閑散としたお祭りになってしまった。それでも私達聖地の音楽隊は雨の中精霊様達に感謝の歌や演奏を捧げ続けた。雨でも風でも雪でも演奏会は行われるから、慣れたものだった。塔の上には簡易の天幕が張られ、楽器を雨からガードした。幸い小雨で風が吹き込むでもなかったから、楽器は濡れることなく予定通りの曲目を演奏できた。


「今年はどうしたのかしらね?なんだか空気が重苦しいわね」

歌い終わったソフィアさんが髪や体を拭きながら、不安そうにしてる。

「あまり精霊達が()()()こないなぁ」

隊長さんも頭をかきながら、眉をひそめてる。ずっと指揮をしている隊長さんは濡れそぼっていて、もう何度か服を着替えてる。熱を出したりしないかって心配だわ。

「確かに、いつものように手放しで喜んでる感じがしないな……」

ラーシュ様も腕を組んで考え込んでる。それでも初日よりは空気が和らいでいる気がするの。


最終日の今夜、最後は私の独唱を残すのみ。雲の切れ間から差してきた星明りの中を塔の端へと進んだ。ラーシュ様が小さく

「頑張って」

って言ってくれた。不穏な空気に不安だった心が晴れていく。私って単純だわ……。ラーシュ様に小さく頷いて更に前に進み出た。ラーシュ様のクラヴィーアの音が響く。旋律が重なるごとに雲が晴れて星空が見えてきた。すごいわ!ラーシュ様の音が星空を連れてきてくれた。


星、流れ星、流星群と垣間見えた時の聖地。美しい精霊様達の世界。思い出して心が澄み渡ったような気持ちがした。精霊様達はあんな美しい世界からやってきて私達を守ってくださってる。そのことに感謝を。こうして歌えることが嬉しい。私の歌を聞いてもらえることが嬉しい。喜んでもらえたらもっと嬉しい。そんな風に心を込めて歌い切った。


いつの間にか目を閉じていたみたい。そっと目を開くと花、水、風、雪、氷の大精霊様が現れていた。名乗ったわけではないけれど何となくそうだって思ったの。そしてその後ろの上空にはまばゆい金色の光。

「精霊王様……?」

「昨年と同じだ……」

「ラーシュ様!」

ラーシュ様が隣に来て一緒に空を見上げ、いつしか二人で膝をついていた。


「…………………………………………………………………………」

「え?」

精霊王様から様々な言葉が、ううん、思いが頭の中に流れ込んできた。


「呪法?」

聞き取れたのはそれだけだった。

「禁忌の呪法……?」

隣のラーシュ様が呟く声が聞こえた。精霊王様も大精霊様達も悲しそうな顔をすると、次の瞬間にはその姿は消え去ってしまった。


「ラーシュ様……」

「リファーナにも聞こえたんだね……」

「はい。何でしょう『呪法』って」

「しかも、『禁忌の』ね」

ラーシュ様と私は顔を見合わせた。私達の後ろでは隊長さん達が大騒ぎをしてる。

「また現れたぞ!」

「今年は大精霊様達も一緒だ!」

「王家の方に報告を!」

「すごいわ!リファーナちゃん!グラソン君!」


「どうやら、音楽隊の皆にはあの「声」は聞こえなかったみたいだね」

ラーシュ様が私の手を取って立ち上がらせてくれた。最後に見た精霊様達の悲し気な表情が忘れられない。演奏と歌は喜んでもらえたみたいなのに心が重くて不安で、思わずラーシュ様の腕にしがみついてしまった。

「あの張りつめたような空気は無くなった。けど急いで調べる必要がありそうだ」

ラーシュ様は励ますように私の手をポンポンと叩いてくれた。

「まずは大喜びしてる彼らに事情を説明しないとね」

「そうですね」

苦笑いだったけど、ラーシュ様が笑ってくれたから少し笑う事ができたの。


いつの間にか小さな丸い精霊様達の光が私達の周りに集まって来てくれた。そういえば精霊祭が始まってからは近くにいなかったわ。雨に気を取られて気づいてなかった。

「良かった。いつも通りの精霊様達だわ」

胸の中の不安は消えないけれど、精霊様達が戻って来てくれたことにとてつもない安堵を覚えたの。


「いつも通りの晴れた空……」

飛び回る精霊様達を見ながら空を見上げる。雲は行き去り満点の星空が見えている。



『闇の聖地には恐ろしい呪法が伝わってるんです』



「呪法」……そうだわ!ハリエット様だ。ハリエット様なら何かご存じかもしれないわ。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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