実家のお茶会
来ていただいてありがとうございます!
精霊祭まであと一月となった頃、スティーリア家から私とラーシュ様宛てにお茶会の招待状が届いた。
「お茶会ねぇ……」
「ラーシュ様、私一人でも対処できますから」
一緒に行けば確実にラーシュ様に不快な思いをさせてしまうことがわかる。今、聖地の音楽隊は精霊祭の練習でとても忙しいから、せめてラーシュ様にはそちらに集中して欲しかった。
「駄目だ」
「駄目ですよ」
「いけません!」
「やめた方がいいです!」
ラーシュ様、ヒースコートさん、サーラ、アンさんにそれぞれダメって言われちゃった。私って頼りないのね……。
「大体言われそうなことは見当がつくけど、それに応じる事はできないな」
「そうですよね……。お父様ったら……」
聖地の音楽隊の事を一体何だと思ってるのかしら……。私はため息をついた。
「勿論一緒に行くよ。あいつがいるかもしれない所へ一人でなんて行かせられない」
あいつ……。そうか……、フローリア様もいらっしゃるかもしれないんだわ。またズズンと気が重くなった。
「ご迷惑をおかけします……」
「リファーナ?リファーナに関することで僕が迷惑だと思うことは無いから」
「ラーシュ様……。ありがとうございます」
ラーシュ様に肩を抱かれ、励ますように手を握ってもらった。ラーシュ様の肩に頭を預けると、体から力が抜けるように感じた。家に帰ると思うと少し緊張するみたい。
あれ?他のみんなが居間からいなくなってしまってる……?え?いつの間に?
「しかし大概しつこいな、あの公爵も。そんなに「精霊の歌姫」にご執心ならそれこそ、他の聖地へでも相手を探しに行けばいいのに」
確かに星の聖地にはまだ未婚の歌姫様がいらしたけれど、フローリア様を押し付けるのは申し訳ない気がする。だからといって、「精霊の歌姫」に興味を持たれるのも困る。
「いっそ精霊の歌姫や奏者なんてやめて外国へ逃げようか」
「え?」
「なんてね。冗談だよ」
「ラーシュ様がそんな冗談を仰るのは珍しいですね」
ちょっとびっくりしたわ。
今、窓の外……?一瞬たくさんの精霊様達が集まって来ていたような気がする……。いない……?気のせいだった?
「僕はリファーナが精霊の歌姫じゃなくても、愛してるから」
ラーシュ様は気が付かなかったみたい……。やっぱり私の気のせい?……って、今ラーシュ様何て言った?
「あ、愛……?」
「うん。僕はリファーナを愛してる」
どうしよう、嬉しい。そんな風に言ってもらえるなんて……。でも恥ずかしくて顔が熱い。
「リファーナ、真っ赤だ。可愛いね」
「か、かわいい……?」
「リファーナは可愛いよ」
見つめられて思わず目を逸らしてしまう。どうしたの?ラーシュ様がちょっといつもと違う気がする。
「もう、あいつには近づかせない。傷つけさせたりしない」
ラーシュ様の手が私のあごにかかった。
軽く触れあった後、次第に長くなる口付け。まるで労わるような慈しむような、優しいぬくもりが唇から体の奥へ染み渡っていくみたい。
今日、練習がお休みで良かった……。こんな風にされてしまったら、力が抜けて立てなくなってしまうから。
七日後
「無理です」
私はお父様の目を見てきっぱりと告げた。
「一曲くらいはいいのではないかな?」
少しひるんだみたいだけど、お父様は諦めなかった。手強いわ。
「そうよ。アグネータの為に歌ってあげて欲しいわ」
お母様……。お姉様の為じゃなくてお母様の社交の為でしょう?
スティーリア家の屋敷の応接室で、私とラーシュ様はスティーリア伯爵夫妻と対峙していた。
「私達は精霊様のための歌い手と奏者なのですよ。そんなことをしたら逆に世間様に反感を買うことになってしまいます」
「その通りです。下手をすれば精霊にも見放されることになります。皆さん勘違いされてるようですね。古くは国王であった人でも同様の過ちを犯して、その立場を危うくしたとか……」
ラーシュ様は私の隣で腕を組み、ちょっと深刻そうな面持ちでお父様達を見据えた。
案の定というかなんというか、お茶会に招待された理由はアグネータお姉様達の結婚式で何曲か演奏してもらいたいという依頼だった。そんなのできるわけないじゃない……。以前に学園で演奏できたのは学園という公の場、そして私達がまだ学生だったから特例だったのよ。
「う……」
「まあ……そのような……。あ、あなた……」
「うむ……。ではせめて参列だけでも……。そのくらいなら許されるのだろう?」
やっと諦めてくれたわ。こんな事言い出す前に、少し考えればわかると思うのだけれど。お父様ってこんなに動揺を顔に出す方だったかしら。昔は無表情で体が大きくて、とても怖い人だったのに。それにそもそも結婚式はお姉様の結婚式だもの。元々参列させてもらうつもりだった。一応姉だし。
「一応家族ですから……」
「……一応か……」
お父様はちらりとラーシュ様に視線を投げた。
「僕もリファーナと一緒に参列させていただきますよ」
ラーシュ様はいつもの社交の笑み。
「ありがとうございます。グラソン様」
お父様とお母様は汗をかきながら、しばらくの間お辞儀の姿勢のままだった。
結局最後までアグネータお姉様とフローリア様は現れなかったからちょっとホッとしたわ。
せっかくだから、私の部屋の本なんかを少し持って帰ろうと思って見繕っていたら、お母様が入ってきた。
「ねえ、リファーナ?やはりこの屋敷へ帰って来られないの?」
またこの話?お母様はよっぽど私を社交の道具にしたいのね。
「私はまだ学生ですし、聖地の音楽隊の隊員なのです。ここに住んだら通うのに時間がかかりすぎてしまいます」
「なら、うちの別邸に住めばいいのではなくて?」
さもいいことを思いついたというようにお母様がポンと手を合わせる。別邸と言われても……。
「どの辺りにあるのでしょうか?」
「え?」
「私はスティーリア家の別邸へは行ったことが無いので」
「精霊祭は毎年…………いいえ、そうだったわね。あなたを連れて行ったことは無かったわね。ごめんなさい。私は自分より格上の家に嫁いでいっぱいいっぱいだったから……。社交も本当は苦手だったのよ。今は大分慣れたけれど……。幼いあなた達の面倒を見てあげる余裕がなくて……」
「お母さまも私と同じで社交が苦手なんですね」
「リファーナ……」
「ごめんなさい。お母様。私そろそろ帰らないと。」
見つけ出した目当ての本を胸に抱いて部屋を出た。
「精霊祭が近いので、本当は毎日練習があるんです」
「もう、帰ってしまうのね……」
寂しそうな声に聞こえたけれど、たぶん気のせいね。そんなはずはないもの。
「結婚式の事、お役に立てず申し訳ございません。お母様も社交を頑張ってください。では」
ラーシュ様と私は渡された結婚式の招待状を持って、花の聖地の街へと戻ったの。
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