星雨の演奏会
来ていただいてありがとうございます!
「すごい……」
「うん。星の歌姫筆頭と言うだけのことはあるみたいだ……」
星々が空を走る夜、星の聖地「岩の座」の上にはかがり火がたかれ、様々な楽器が用意された。そしてクララ様の独唱で星の音楽会は始まった。私達は花の聖地のローブを身につけて静かに出番を待っていた。クララ様は私の事を褒めてくれていたけれど、とんでもないわ……。練習の時から思っていたけれど、本番は更に凄かった。クララ様の女神のように堂々とした姿と妙なる歌声に精霊様達も水を打ったように静かに耳を傾けているみたい。
自然のステージの上ではクララ様の歌をかわきりに次々と団員さん達の演奏が行われていった。
「流星群は花の聖地でも見られたけれど、この星の聖地のは少し違うように感じます……」
流れる星から光が草原に舞い降りていく。
「精霊様は空からもやって来るんですね……」
星の動きと音楽が呼び合っているよう。もっとよく見たい。もっとよく聞きたい。
「リファーナっ」
ラーシュ様が小声でたしなめてくれる。
「前に出すぎだよ」
「ご、ごめんなさい。つい……」
知らずに一歩また一歩とステージの方へ近づいてたみたい。恥ずかしい。気がついたら待機場所の天幕から出そうになっていたの。
私達がアクロアイト王国に到着した次の日。星の音楽団の練習を見学させてもらったの。クララ様を含めて星の歌姫様は五人。どの方もとても上手で、三日後に迫った音楽会の準備は万端という感じだった。
星の聖地の街では今日から星祭りが行われているけれど、外の賑やかな雰囲気は全く伝わってこない。「星の宮」のどの練習室でも鬼気迫る雰囲気で最終調整が続いていた。午後からは私とラーシュ様もクララ様と団長さんがいるチームでの練習が始まった。
「完璧ですわね!」
「ああ、これなら問題ない」
クララ様と団長さんの言葉にラーシュ様と私は笑い合った。ここへ来る道中も必死で練習して仕上げてきたから、自信はあったの。ただ、五曲中三曲はこちらの音楽団との合奏だったから、皆さんと合わせるまではどうなるか分からなかった。合格の言葉をもらえてほっとしたわ。
夜もかなり深くなった頃、演奏が続くステージを見ながら出番を待った。もうすでにこの頃には私達の練習してきた三曲の合奏は終わっていた。後は私とラーシュ様の二人だけの演奏を二曲残すのみ。
二百人いる団員さん達が二人から二十人くらいまでのチームを組んで演奏をしていくの。中にはチームを掛け持ちしてる人もいるみたい。どの曲もとても完成度が高くて素晴らしいものばかりだった。これが夜明け前まで続くのね。
「僕達も負けていられないね、リファーナ」
「はい。ラーシュ様」
進行を司る団員さんが、演奏順が書かれた用紙を見ながら声をかけてくれた。
「次、花の歌姫様、花の奏者様お願いします!」
「はい」
「行こう」
ラーシュ様に頷き、手を繋いでステージへ進み出たの。
「頑張ってね」
すれ違いざまに、前の演奏者さん達から励まされた。この方達は闇の聖地の音楽団の方達だ。今回は一緒に演奏できなくて残念だったわ。そんな気持ちを込めて笑顔で答えた。
「ありがとうございます」
ラーシュ様がクラヴィーアの前に座る。私はラーシュ様の隣に立った。最初の曲はクラヴィーアがメインの曲。添えるように静かに歌う光の精霊様を讃える曲。ああ、ラーシュ様の音は優しくて心地がいいわ。
次の曲は私の独唱。ラーシュ様の伴奏が始まり私はラーシュ様の隣から前へ進み出た。流れる星が雨みたい。星空がとても綺麗だわ。この星の聖地へ来た日に精霊様に見せてもらった光景と同じ。歌い出すと精霊様達が一斉に舞い上がる。ラーシュ様の時と同じように。良かった。私の歌も喜んでもらえてる。光の乱舞と星空とかがり火。とても幻想的で別の世界へ来たみたい。
ひときわ大きな星が流れた。星は尾を引いて消えていく、はずなのにこちらへ近づいてくる?!驚いて思わず歌うのをやめようとしたけれど、
「大丈夫だよ」
って小さな声が聞こえた気がしたの。だから私は歌い続けた。
「眩しい……」
いつの間にか光が世界を満たして、目の前には雲の上に建つ不思議な形の建物が現れていた。私は歌い続けてるのに誰かと会話してる。
「これは珍しい。ここまでくる人の子がいるとは。おお、時戻りの歌姫か」
時戻り?
「湖の精霊達があまりにも騒ぐから」
少年のような少女のような老人のような不思議な声だわ。
「歌が聞きたいと泣くから戻したのだよ」
あなたが?助けてくれたの?あなたはどなたですか?
「終わらせてしまうのは悲しいからと」
湖の精霊様達が頼んでくれたのね。
「彼らの為に歌ってやっておくれ」
ああ、ありがとう湖の精霊様達、ありがとう……時の精霊様……?
「……ナ、…………ファーナ!……リファーナ!?」
呼びかけられて我に返ったの。まだ私達は光の中にいる。
「ラーシュ様?」
いつの間にか歌い終わってた。私は今どうしていたのかしら……。頭が少しぼんやりするわ。
「って、え?!」
目の前には精霊様達が並んでた。人や四つ足の動物の姿をした大精霊様達がずらーっと。みんな面白そうにこちらを見てる。
「……これは一体……」
ラーシュ様が戸惑いながら私の肩を掴んでる。
「ここはそういう場所なのですね」
「リファーナ?」
わかった気がする。
『花の歌姫か』
『花の奏者もいる』
『よき音、よき歌であった』
『湖から来たのか……』
『時の扉を開くとはなかなかのものだな』
『また聞かせておくれ』
『時戻りの歌姫』
大精霊様達は口々に言い置いて、やがて光の中に消えて行った。
ラーシュ様と私は大精霊様達の消えた方に向かって一礼し、舞台袖になる天幕へと戻ったの。
流れ星はまた一段とその数を増やして夜空を輝かせていた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




