懐かれた?
来ていただいてありがとうございます!
「リファーナ様、素晴らしいですわー!!」
右腕がちょっと重いわ……。あと、団長さんより輝いてる銀の髪が眩しいの。くるくる巻いてる髪が光を反射してる。
「あ、ありがとうございます。クララ様」
ああ、ラーシュ様の視線が冷たい。でも今は寒風くらいかしら。
「もうねぇ、わたくし貴族の令嬢と令息がお金の力で名ばかりの栄誉を得たんだと思ってたんですのよ?」
あ、そんな風に思われてたんだ……。
「歯に衣着せないね……」
ラーシュ様は腕と足を組んで座ってる。怒ってるのかと思ったら少し感心してるみたい。
「お二人の実力は本物だったわ!正直花の聖地の音楽隊なんてって舐めてましたわ!」
……クララ様ってとても正直な人なのかもしれない。かえって信頼できるかも?
「クララ!いい加減にしなさい!そんなにくっついては花の歌姫様に失礼だし、ご負担になってしまう」
ぎゅっと私の右腕にしがみついたクララ様は離れてくれる気配が無い。
「団長!団長だってそう思ってましたでしょう?みんなだってそう言ってましたわ!」
「そんなことは思ってないし、言ってもいない!全く……。お二方、大変申し訳ない」
団長さんは髪をかき上げるのが癖なのかもしれないわ。苦悩の表情で俯いた後、銀の髪をかき上げてる。そういえばここの聖地の音楽団の人達は銀の髪が多かったみたい。
「いえ」
ラーシュ様に助けて欲しいって、視線を送ったんだけど目を逸らされてしまった。ラーシュ様、酷い……。
ここは星の聖地の音楽団の拠点の建物。通称「星音の宮」。その応接室で私とラーシュ様は向かい合って座っていた。何故ならクララさんが私の腕にしがみついて離してくれないから。困り顔の団長さんの隣にはラーシュ様が不機嫌そうに座ってる。ヒースコートさんとサーラは一足先に宿泊場所である迎賓館に移動して荷物を解いてくれている。
この応接室は何だかお城の中みたいに豪華なの。建物の外側は三階建ての貴族のお屋敷みたいなんだけど、内装がとにかく全て豪華なの。ここの屋上から岩の上へ続く長い階段が続いていて、私とラーシュ様もさっきの演奏の時に登ったけど結構体力使ったわ。ここの皆さんはこれで鍛えてるのかしら。
「このお茶美味しいですわよ」
隣に座ったクララさんから勧められたお茶はどこかシュネーに似た香りのお茶だった。
「あ、美味しい……です!」
「でしょ、でしょ?特産のレンレンという果物で香りづけしてあるの!このお菓子も食べてみて!リファーナ様のお国にもあるかしら?」
「いえ、こういうお菓子は無いです。こちらもとても美味しいですね」
食べさせてもらったお菓子は粉類や卵やお砂糖で作った生地にレンレンを混ぜて油で揚げてあるって説明された。レンレンはこの地方の特産の果物なんですって。
「小さな星の形でとても可愛らしいです」
一つつまんで宙にかざしてみた。
「きゅうううううんっ!」
いきなりクララ様がちょっと形容できない声を出した。本当にこんな声だったの!
「もうっ!もうっ!可愛いっ!本当にお花の精霊様みたい。リファーナ様って透明感があって儚げで、そのお日様色の髪もサラサラで素敵!!お花そのもののたおやかさなのに、歌われる時には精霊の女王様みたいに威厳もあって、本当に素敵でしたわぁ!!」
クララ様の頬が赤くなってる……?大丈夫かしら。もしかして熱があるんじゃ……。助けを求めてラーシュ様の方を見ると、何故かうんうん、と頷いてる……?
「なかなかわかってるじゃないか。見どころがあるね」
とか呟いてる。どうしよう、これ。なんだかカオス……。
「こら!クララ!花の歌姫様が困っていらっしゃるぞ。いい加減に離れなさい。ただでさえ、長旅でお疲れなんだ。さあ、君は練習に戻りなさい!」
「えーっ!!」
「明日から僕らも練習に参加させていただきますよ」
不満げなクララ様にラーシュ様がにっこりと笑いかけた。
「そうなのですか?!花の奏者様!!じゃあ、練習に戻ります!また明日ね。リファーナ様」
パッと立ち上がってパタパタと部屋を出て行ったクララ様はもう一度戻ってきて、
「ゆっくりお休みになってね!」
と手を振ってドアを閉めて去って行った。
「…………」
「…………」
「騒々しい子で申し訳ない」
団長さんが申し訳なさそうに頭を下げた。春の大風が過ぎ去った後みたい……。
「いえ、仲良くしていただけそうで嬉しいです」
これは本当の気持ち。表裏のない人みたい。お友達になれるといいな。
「そう言っていただけると助かります……。ではこれからのスケジュールをご説明した後、迎賓館までお送りいたします」
団長さんは疲れたように笑った。なんだか大変そう……。
用意してもらった部屋に行くとサーラが待っていてくれた。私の部屋とサーラの部屋、そしてラーシュ様の部屋とヒースコートさんの部屋が同じ階にあって、更にラーシュ様の部屋と私の部屋の間にみんなで集まれる居間のような部屋まであるの。その部屋にはクラヴィーアも置いてある!ものすごく待遇がいいのね。
「ずいぶんと懐かれたみたいだね」
四人で居間に集まってお茶を飲みながら話をした。ラーシュ様は苦笑してる。
「最初はどうなることかと思いましたよ」
ヒースコートさんがため息をついた。私もラーシュ様がいきなり演奏するって言った時はどうしようかって思ったわ。
「お嬢様が精霊の歌姫様として歌ってらっしゃるところを間近で見られて嬉しゅうございました」
サーラとヒースコートさんは最初は一緒に座ることを断ったけれど、この旅の間だけといって説得したの。
「懐かれた……のでしょうか?」
クララ様のあの様子だと少なくとももう敵対視されてないし、嫌われてもいなさそうで安心してるけど。
「ああ、最初は随分とふざけた態度を取ってくれたけど、案外まともだったみたいだ」
「まともとは?」
「完全な実力主義なんだろう。僕達が金でこの立場を買ったのではと疑ってたんだよ」
ヒースコートさんの問いにラーシュ様が笑って答えた。
「それは……少々無礼ではありませんか?」
ヒースコートさんが眉をひそめた。
「長らくエミリア様に続く者が現れなかったんだから、そう思われても仕方ないと思うよ」
エミリア様……、長年ずっとおひとりで精霊の歌姫として努めていらした方。ご高齢のために今はほぼ引退状態なのよね。春以来お会いしてないわ。こちらで何かお土産を買って、帰ったらお顔を見に行こう。クララ様にお聞きしたら、何がいいか教えていただけるかもしれないわ。
「うちはリファーナと僕だけだけど、星の聖地では音楽団内だけでも精霊に認められたものは二十人以上いるらしいから」
「音楽団の中だけで二十人以上ですか?!」
サーラが驚いてる。そうよね、花の聖地とは規模が違うわよね。
「これからの予定を説明するから、アレンもサーラも頭に入れておいてくれる?」
「かしこまりました、ラーシュ様」
「承知いたしました」
「うん。まずは、明日から僕とリファーナは星の音楽団の練習に参加する」
ラーシュ様は団長さんから聞いたスケジュールをヒースコートさんとサーラに説明した。星の音楽会は星が最も多く流れる夜に行われる。街ではその前後三日間に星まつりというお祭りがあるの。精霊祭のような感じね、きっと。今回は四日後の夜になる。そこまでは練習でかなり忙しくなると思う。ヒースコートさんとサーラは全力で私達をサポートしてくれるって請け負ってくれた。何度も言うけど私達は花の聖地と王国の代表だから、しっかり頑張ろうと思うの。
「ラーシュ様、今日の練習は……」
「僕達はもう完璧に曲を仕上げてきてるから、あとは向こうの音楽団と合わせるだけだ」
夕食の後ヒースコートさんとサーラが自室へ戻り、二人きりになった。
「今日はもう休もう」
今日も練習をすると思ってた私は拍子抜けしてしまったの。
「じゃあ、お部屋に戻って……ラーシュ様?」
肩を抱き寄せられたので、部屋へもどれない……。ソファに座ったまま右腕をさすられた。
「ラーシュ様?」
そのまま右腕に何度も口付けられた。
「どうなさったんですか?」
「ん、ちょっと消毒」
「消毒?」
「リファーナは僕のなのにベタベタ触られたから」
「ラーシュ様、クララ様は女の子ですよ?」
「関係ないよ、男でも女でも。リファーナに触れていいのは僕だけだから」
そのままそっと唇が重なり、そして私の膝に倒れこんできたの。
「リファーナはどこへ行っても愛されるね……」
「ラーシュ様?」
どうしたんだろう?今夜のラーシュ様、いつもと違うみたい。どこがとか上手く言えないけれど。
「ねえ、リファーナ……もし……僕が…………」
「ラーシュ様……?」
ラーシュ様はそのまま寝息を立て始めたの。疲れてるのかしら。それも当り前よね。長旅だったし練習もしたし、さらに今日も大変だったし……。
あったかなラーシュ様の体温に私も眠くなってきちゃった………………。
眠りに落ちる寸前に窓の外を一筋の光が流れた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




