風の演奏会
来ていただいてありがとうございます!
「こんな風の中で歌うのね」
強い風が鮮やかな緑の木々の枝を揺らしてる。
今朝目覚めた時から風の精霊様達が舞い踊るように私の周りを飛ぶようになったの。
「ああ、これがそうなのね」
「その時になればわかるっていうのはこういう事なのか」
ラーシュ様も驚いて私を見ている。
学園に欠席の連絡をして私は急遽花の聖地の街へ向かった。他の隊員さん達の所でも同じ現象が起こったらしく、続々と精霊の音楽隊の拠点の建物に集まって来ているの。演奏会用の衣装に着替えを済ませ、他の隊員さん達と一緒に塔へ向かった。塔までは若草色の衣装を身につけた聖地の音楽隊の隊員達の大行進になった。それを見かけた花の聖地の街の人達は大騒ぎになってるみたい。
「大風が来るよ!」
「演奏会は今日だ!」
「風の演奏会だ!」
楽器奏者は塔の楽器保管庫から楽器を出して、塔の屋上にセッティングを始めている。歌い手は塔の出入り口付近の一階フロアで発声練習を行う。ラーシュ様は正規隊員じゃないからこの定期演奏会には出られないけれど、クラヴィーアで音とりを手伝ってくれた。
塔の外ではどんどん風が強くなっていく。そうして全ての準備が終わったのは昼を過ぎた頃。
「頑張って。リファーナ」
「はい!行ってきます。ラーシュ様」
みんながそれぞれの立ち位置に立つと隊長さんが指揮をとる。
風が強い……。精霊様達が激しく舞い踊ってる。でも最初の音が奏でられると不思議と風の音は気にならなくなった。しんと静まり返ったような空間にいるよう。心を込めて心を一つに奏で、歌う。精霊様達も呼応するかのように音に合わせて踊りだし、私達は同じリズムと旋律を共有した。
曲が静かに終わり、大きな拍手が遠くに聞こえてきた。
「いつの間に……?」
塔の下にはたくさんの人が集まってるみたい。ぼんやりとそれを眺めた。歌ってる時の、夢の中にいるような感覚がまだ残ってるみたい。
「いつもこうよ。誰に知らせなくても集まってくるの」
ソフィアさんが教えてくれた。
「塔へ向かって衣装を身につけた集団が歩いていれば、今日が風の精霊様を讃える演奏会だって伝わるわよね」
ああ、そっか……それが人づてに広まったのね。
「それにしても今回は、こう、凄かったわね」
「……凄かったんですか?」
「もう!一番の立役者が何言ってるの!」
「……え?」
「やだわこの子ったら自覚無しなの?あんな風に精霊様達が舞い踊るなんて滅多にない事よ?」
「そうそう!精霊の歌姫様みたいだったよ」
あ、ソフィアさんとラルフさんに精霊様達がくっついてる。きっと二人の歌が気に入ったのね。
「それは皆さんの演奏が良かったからなのでは?」
「もう!自分をよく見てごらんなさいよ!」
「わわ!」
精霊様がいっぱいくっついてる?!歌い終わった高揚感で頭がぼんやりしてて気が付かなかった。肩や両腕、風になびくスカートにも!!よく見ればみんなの周りにも精霊様達の光が集まってる。良かった。精霊様にとても喜んでもらえたんだわ。
「演奏会は成功ですね」
「大成功だよ!!みんな!よくやってくれた!これで今年一年は風の精霊様の加護は約束された!」
隊長さんがみんなの肩や背を叩いて回ってる。ちょっと痛かったけど嬉しかった。
実は今日は精霊の歌姫様がいないの。昨年までは無理して演奏会に参加なさってたんだけど、今年からは日程が決まってる演奏会にだけ参加することになったんですって。体調を調整するのが難しくなってきたからだという事なの。だから、私達だけで演奏会成功させなくちゃならなかった。歌姫様の代役はソフィアさんが務めてて、とても素敵だった!
「リファーナ!!」
「わっ、ラーシュ様っ!!」
塔の屋上の入り口で見守ってくれてたラーシュ様に抱きしめられて、精霊様達が一斉に飛び立っていく。
「…………っ」
「ラーシュ様?どうしたんですか?」
「……ごめん。凄かったよ。リファーナ」
「はい!ありがとうございます!ラーシュ様に褒めてもらえると嬉しいです!」
「リファーナ……」
ラーシュ様が何だか変。笑ってくれてるのに寂しそう……?この後はみんなで楽器や譜面台を片付けて帰るだけだったんだけど、ラーシュ様はしばらく私の手を離してくれなかったの。
塔の外にはまだたくさんの人達が残ってるみたい。ざわめきや歓声が聞こえてくる。
「あら、珍しいわね。フローリア公爵様がおいでだわ」
本当だ。外へ続く扉の近くで隊長さんとお話してる。横を通らないと外に出られないわよね?挨拶をするべきなのかしら?でも今日はお姉様も見当たらないし。軽く会釈で大丈夫かしら。あ、こっちを見たわ。え?近づいてくる?
「リファーナ嬢」
もう目の前に来ちゃった。私、この方今は苦手だわ。でもせっかく来てくれたんだから、やっぱり挨拶ぐらいはすべきよね。
「フローリア様、演奏会においでいただきありがとうございます……え?」
私の手を取って膝をついた……?
「素晴らしかった」
見上げてくる金の瞳にあるのは賞賛の色だった。
「やはり、貴女は……」
そのまま私の手を口元に……。え、嫌っ!そう思った瞬間、強い突風が吹いて私とフローリア様の間を通り抜ける。塔の中なのに?!それと同時にラーシュ様の冷たい声が響き、私の手を取り返してくれた。
「リファーナは私の婚約者です」
「ラーシュ様……」
私は思わずラーシュ様の手を両手で握りしめてしまった。
「これは不調法を……」
フローリア様は立ち上がって不敵に笑った。
「リファーナは疲れていますので、休ませなければなりません。失礼します」
ラーシュ様の冷たい微笑みを久しぶりに見た気がする。ラーシュ様は私の肩を抱いて歩き出した。
「帰ろう、リファーナ」
「はい。失礼します。フローリア公爵様」
一体何だったの?この間の見学会の時の怖さを思い出してしまった。
ラーシュ様と一緒に塔の外へ出ると拍手で出迎えられたの。明るい日差しとみんなの笑顔に不安な気持ちが少し和んだ。
「大丈夫だよ、リファーナ。僕がついてる」
強い風が吹く中、耳元でささやかれた言葉に肩の力が抜けた。精霊様達もまた集まって来てくれて髪を引っ張ってきた。精霊様にも励ましてもらえたみたい。
「ありがとう、精霊様達。ありがとう、ラーシュ様」
ラーシュ様の深い緑色の瞳を見て、やっと笑う事ができた。私は待っていてくれた観客の皆さんに一礼をして塔を後にしたの。
帰り際、見知った人がいた気がした。馬車に乗り込む前に振り向いてみたんだけどもういなかった。
あれって、ロッティー様だったような気がするんだけど……。
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