休憩室でのおしゃべり
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「えっと、春の花の演奏会は終わったから、次は風の精霊様を讃える演奏会ね。その次は水の精霊様を讃える演奏会……か。秋の精霊祭までに結構たくさんの定期演奏会があるのね」
聖地の音楽隊の練習場で、私は一冊の小冊子を食い入るように見ていた。今年の冬に合格した新しい聖地の音楽隊の隊員に配られた小冊子には一年の定期演奏会の予定が書いてあるの。でも不思議。日付が書いてないものが結構多いみたい……?
「待って待って!リファーナちゃん!その前に私達の演奏会があるわよ!」
ソフィアさんは最近私を「リファーナちゃん」って呼んでくれるの。仲良くなれたみたいでちょっと嬉しい。
「そ、そうでしたね。結構演奏会が続きますね」
「リファーナは他のグループの人達にも演奏会に誘われてるよね」
「そうでした……!」
ソフィアさんとラーシュ様の言葉にちょっと目の前がくらくらしてきた。学園の授業も結構詰め詰めで入れてあるし、今年はかなり忙しくなりそう……。
「大丈夫よ!リファーナちゃんは今までたくさん練習してきたでしょ?」
「そうそう!リファーナさんとグラソン様は即戦力だからね。問題ないよ」
ラーシュ様とソフィアさんと私の会話に入って来たのはラルフさんという歌い手の男の人。前の演奏会でのお茶事件の時に私を庇ってくれたリーダーさん。私はソフィアさんとラルフさんのグループで週に一度の演奏会に参加させてもらってるの。
「ちょっと待ってください。僕はまだ正規隊員じゃありませんよ」
ラーシュ様は戸惑ったような表情でラルフさんに答えた。
「いやいや、もうグラソン様はうちのメンバーだからね。今から予約しておくから!」
「そうねぇ。グラソン様は受験すれば合格間違いなしよね」
ラルフさんとソフィアさんのお墨付きだわ。私もずっとそう思ってるけど。
「ラーシュ様!ラーシュ様はクラヴィーアの期待の星ですね!」
「こら、リファーナ、それは前の仕返し?」
こつんと頭を叩かれた。全然痛くないけど。仕返しって何?
「え?違いますよ?本当にそう思ってます。ラーシュ様の演奏はとても心地いいです。ずっと聞いていたい音色だと思います。精霊様も演奏会ではたくさん集まって来てくれてます!それにラーシュ様がクラヴィーアを弾いている姿はとても優美だってみんな仰ってて……あ、もちろん私が一番そう思ってます!それにむぐ」
「もういいから」
あら?ラーシュ様の顔が少し赤い。ラーシュ様の手に口を押さえられたまま見るとラルフさんとソフィアさんがニコニコニコニコ笑ってる。
「うふふ、本当に二人は仲が良いわねぇ」
「うんうん、いいことだ」
ソフィアさんとラルフさんは、お母さんとお父さんみたいにしてるけどまだ二十代半ばなの。いつも親切で優しくて、色々教えてくれて、素敵なお兄様とお姉様ができたみたいって秘かに思ってる。
ちなみに、風の精霊様を讃える演奏会は、春風が強く吹く日が十日程続く期間の初めの日に行われるの。その時になれば精霊様が教えてくれるって言われた。その日が近づいてきたら知らせてくれるんですって。精霊様は急な天候の悪化なんかも教えに来てくれるって教えてもらった。たとえば大雨が降ることが予め分かったら、とても助かるわよね。予め準備ができるし川には近づかないように避難もできるもの。
あれ?ということは定期演奏会と言っても決まった日の無い不定期の演奏会じゃない?だから日付のない演奏会が多かったのね。水の精霊様を讃える演奏会も同じ。雨が降る日が続く時期の始まりの日に行われる。だからいつその日が来てもいいように練習をしておくの。いつでも万全の態勢を取っておくのってちょっと大変だけど、頑張るわ。
練習後には給湯施設のある休憩室で、みんなでお茶を飲みながらおしゃべりするのが通例になってる。私はこの時間が大好きで、みんなのお話を聞くのがとても楽しみなの。
「この前寝てた所を起こされて、演奏させられたよ」
こう話してくれたのはヴィオリアの奏者の男の人、トムさん。
「え?精霊様にですか?」
「ああ、星の精霊様だったね。おかげでその日は寝不足だった」
困り顔をしてるけど、トムさんはどことなく楽しそうだった。
「ああ、気に入られちゃうとついてきちゃうこと、よくあるわよねぇ」
ソフィアさんも覚えがあるみたい。
「あれ?じゃあ、あの時家の庭木にいた精霊様達ってもしかして……」
私はお姉様と婚約者の顔合わせで家に戻った時の事を思い出した。
「ああ、それはリファーナさんを気に入ってついて行っちゃったんじゃないかな」
間違いないってラルフさんが人差し指を立てた。
「確かに聖地以外で、精霊がいるのをあまり見かけませんね。でもリファーナの練習中は時々精霊が外を飛んでることがありますし、あれはリファーナについて来た精霊だったんですね」
「ラーシュ様のクラヴィーアに惹かれたのかもしれませんよ」
「うーん……それはどうかな」
「あら!それなら二人の合奏を気に入っていただけてるんじゃないかしら。二人は息ピッタリだもの!」
「そうでしょうか。そうなら嬉しいです!」
ソフィアさんの言葉がとても嬉しくて、私は隣のラーシュ様を見た。
「そうだね。いつか二人で演奏会でもしてみようか」
ラーシュ様は微笑んで私の頭を撫でた。
「おお!それは良いアイディアだね。早速企画部に話してみよう!」
んん?今のラルフさんの言葉に聞きなれないのがあったわ。
「企画部というのはなんですか?」
ラーシュ様が一足早くラルフさんに質問してる。そうそれ!企画部ってなにかしら?
「ああ、聖地の音楽隊の中にある有志の集まりでね。組んでるグループ以外でも人を組み合わせて様々な演奏をして精霊様達に楽しんでいただこうと様々な企画をしてるんだよ」
「既存の曲だけじゃなくて、新しい楽曲を作ったりもしてるのよ」
「へえ!そんな活動もしてるんですね」
ラルフさんとソフィアさんの説明に感心した様子のラーシュ様。
「興味があるなら一度覗いてみるといいよ。ここの最上階の資料室を拠点にしてるから」
「そうですね。いずれ……」
凄いわ。熱心な方々が多いのね。私は企画とか計画って向いてない気がするからもっと練習を頑張ろう。ラーシュ様は企画部に興味があるのかしら?
休憩室のテーブルにはいつも何かしらのお菓子が置いてあるの。そのお菓子を食べながらラルフさんが思い付いたように話し始めた。
「そうだ!次の週末は見学会があるからリファーナさんも参加してね」
「え?見学会……ですか?」
また聞いたことがない言葉だわ。そんなのがあるなんて予定表には書いてなかったけど……。
「ああ、そうね。毎年この時期に練習を公開するのよ。多額の寄付をしてくれる支援者様方を招いてね」
ソフィアさんは焼き菓子を一つ摘まんで口に入れた。
「ああ、そういう事ですか」
ラーシュ様が納得したように呟いた。
聖地の音楽隊の活動には王国からのお金も出てるけど、寄付金で賄われるものも多い。この前支給されたローブとか楽譜とかね。後は楽器の修理や新調にもお金がかかるし、今飲んでるお茶も食べてるお菓子も寄付金で買ったり差し入れられたりするものだって、後でラーシュ様に教えてもらった。そっか、だから多額の寄付をしてくれる支援者に練習を見せて頑張ってますって伝えることが必要なんだわ。
ただ歌を歌って精霊様達に喜んでもらえればいいって思ってたけど、そうでもないのね。
「へえ……。聖地の音楽隊の拠点ってこういう所なのね。意外と……普通ね」
「やあ。リファーナ嬢。顔合わせの時以来だね」
そして翌週末、私達の練習を見学に来た人達の中には何故かアグネータお姉様とセドリック・フローリア様の姿があったの。
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