春休みと進級
来ていただいてありがとうございます!
春休みも残り二日。
今日は聖地の音楽隊の練習もお休みでラーシュ様と別邸でのんびり過ごしているの。今日はまた温室でお茶を飲むことになった。前はストーブを入れていたんだけど今回は日差しだけでポカポカしてる。
「母が喜んでいたから、またお茶会に参加してあげてリファーナ」
数日前にグラソン侯爵夫人のお茶会に招かれて、夫人の特に仲が良いお友達という方々に紹介してもらえたの。皆さん歌や楽器が得意な方々で中には聖地の音楽隊に少しの間在籍なさった方もいらっしゃった。最初は緊張したけど、たくさん色々なお話を聞けてとても楽しかった。
「はい!私もとても楽しかったです。珍しい異国のお菓子もごちそうになりましたし」
ラーシュ様のお母様、グラソン侯爵夫人の趣味は旅行で、毎回旅先の珍しいものを手に入れて帰って来るの。今回はお菓子のレシピと乾燥させた果物だった。
「幸せそうだね?そんなに美味しかった?」
「はい。とても!珍しい果物が使われてて今までに食べたことのない味でした」
「ふうん。ねえ、リファーナ、実はまた新しいケーキ店の情報を仕入れたんだけど行ってみる?」
「そうなのですか?」
「リファーナの好きなショコラのケーキや菓子の専門店だって」
「え!行ってみたいです!」
「じゃあ、明日行こうか。そんなに遠くないから明後日からの新学期には差し支えないよ」
「はい!ありがとう!ラーシュ様」
「うん」
「負けず嫌いですねぇ……」
今日はヒースコートさんも一緒。最初は断られてしまったんだけど、頼み込んで一緒に座ってもらえたの。
「うるさいよ、アレン」
「おや、いいんですか?次からは情報はお渡ししませんよ」
「…………悪かったよ」
ラーシュ様は時々お菓子屋さんやカフェに連れて行ってくれる。お母様から教えていただけるのだと思ってたけど、ヒースコートさんからの情報もあったみたい。なんでもヒースコートさんには三人の妹さんがいて、お店巡りが趣味なんですって。姉妹三人でお店巡りなんて楽しそうだわ。うちは無理だものね……。
「リファーナはあまり宝飾品には興味が無いからね……。そっち方面で攻めるしかない……」
「あ、あの!私は別に興味が無いわけでは……。ラーシュ様から贈っていただいたアクセサリーは全部素敵でお気に入りで!もう十分なので!」
「欲の無い事ですね」
お茶を飲みながら、苦笑するヒースコートさん。でも本当にもう十分いただいてるの。
「いえ!食欲はあります!!」
そう。歌うとお腹空いちゃうのよね……。あと、私は顔が地味だからあまり派手なアクセサリーは似合わないと思うの。
「まあリファーナはそのままで十分綺麗だから、飾り立てなくてもいいよね」
「ラ、ラーシュ様っ、そんなことは……」
「いえ、それは同意ですね」
「ヒースコートさんまで……」
褒めてもらえると嬉しいとは言ったけど、行き過ぎるとちょっと空しくなっちゃう。だってやっぱり本物の美人には敵わないもの。ダンスパーティーのマーガレット様やアグネータお姉様を思い出す。
マーガレット様お元気かしら……。もうアップフィール王国へ帰っちゃったのよね。寂しいわ……。
そして、お姉様は無事フローリア様と正式に婚約したみたい。グラソン侯爵夫人からそっと聞かされたの。お茶会では私を慮ってか、お姉様の婚約解消などの話題は出なかった。ちょっと気になっていたけど美男美女で私よりお似合いだと思う。
「あ、またなんか後ろ向きなこと考えてるでしょ?何?僕達の言うことが信じられない?」
「そんなことはありません!」
ラーシュ様ってどうして私の考えてることが分かっちゃうの?
「決めた!明日は宝飾店も追加だね。新しいアクセサリーも贈ろう」
「ええ?!そんな!この前卒業を祝うダンスパーティーでいただいたばかりですから!」
「おや、ラーシュ様、そんなに長い間贈り物をなさってらっしゃらないんですか?いけませんね」
「そうだな。迂闊だった。ごめんね、リファーナ」
「…………」
ああ、駄目だわ。この二人がタッグを組むと私は絶対に言い返せないの。かくして私はラーシュ様と一緒にケーキ屋さんと宝飾店と何故か服飾店をはしごすることになるの。
入学式も終わって私はスモールウッド学園の二年生になった。
「リファーナ、行こう」
「はい!ラーシュ様」
三年生になったラーシュ様は変わらず授業終わりに迎えに来てくれる。スモールウッド学園の高等部は一年生は基本的な必須科目を決められたクラスで修得して、二年生からはクラスには所属するけれど自由に必要な科目を取ることになる。私はラーシュ様と相談してできるだけ今年中に必要な単位を取ってしまうことにしたの。そうすれば三年生の時には必要最低限の授業数で済むから、聖地の音楽隊の活動に専念できる。卒業後は本格的に聖地の音楽隊で働くことになるから、その練習にもなるし。
「素敵よねぇ……」
「本当ですわね」
クラスメイトの女子生徒達からため息が漏れる。そうなの!ラーシュ様は素敵なの!
「リファーナ、ご機嫌だね?」
「ええ!さっきラーシュ様の事をクラスの方達が褒めてたので、嬉しくて」
「…………それはリファーナの事を言ってたんじゃない?」
「そんなことは無いですよ!」
いつもの音楽室について中に入り、鞄を置いて楽譜を取り出す。次の演奏会と次の定期演奏会の為の楽譜とを。ラーシュ様はクラヴィーアの蓋を開ける。
「ラーシュ様はかっこいいですから、女子生徒、ご令嬢方に人気があるんですよ!私、とっても自慢なんです!以前は美少年って感じでしたけど、今は背もすらっと高くて気品があってクラヴィーアを弾いてる時は優雅な感じで、とにかく素敵で」
ラーシュ様の綺麗な指が私の口を塞いだ。
「それ以上言わないで、ここ音楽室だから」
「そ、そうですよね。練習をしに来たんですものね。ごめんなさい」
練習の鬼ラーシュ様が顕在。私はちょっと反省した。そうよね。そんな場合じゃなかったわ。
「違う……。我慢できなくなるから。色々と……」
ラーシュ様の目が熱を帯びてる。そんな目で見つめられたら……。
「…………私も……」
頬に触れたラーシュ様の手に自分の手を重ねた。私もラーシュ様とくっついていたい。
「……リファーナ……。今日は少し早めに切り上げて植物園に行こうか。星柳の花が満開だって聞いたから」
「はい!嬉しいです!」
デートだ。嬉しい……!この先は学園が休みの日には聖地の音楽隊の練習に参加する日々が続くの。ゆっくりデートできる日はきっと限られてくる。ラーシュ様の提案に私は舞い上がった。
「よし!じゃあ少し厳しめに行くよ!」
あ、練習はしっかりするんだ。しかもいつもより厳しいんだ……。
「……ハイ。ヨロシクオネガイシマス……」
練習はきっちりしっかり頑張らせていただきました。
圧巻だった。
植物園に来たのは初めてじゃなかったけど、この時期は初めてだったから今までちょっと損した気分。一面に咲き誇る白い花、花、花!小さな星の形の花が無数に咲く木が何本もあって、今まさに盛りを迎えてる。夕方に近いせいか人影は無く、辺りは静まり返ってる。
「これは……!見事だね」
「はい!とても……とても綺麗です……」
ラーシュ様と手を繋ぎながら、園内をゆっくり歩いた。
「運が良かったね。星柳は満開になるとあっという間に散ってしまうそうだよ」
「あ、本当。もう散り始めてる」
風の精霊様が吹き抜けると白い花がサラサラと散っていく。その様も雪のようでとても美しかった。
「少し寂しいですね」
「大丈夫。また咲いてくれるから。来年も二人で見に来よう」
「来年も二人で……。約束、ね」
「うん」
ラーシュ様の手が私を上向かせた。唇が重なって抱きしめられる。少し未来の約束が私の胸を幸せで満たしてる。私もラーシュ様を抱きしめかえした。大切な約束を確かめるように。
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