顔合わせ
来ていただいてありがとうございます!
「僕も一緒に行くよ」
顔合わせの日、ラーシュ様は私を心配してくれてスティーリアの屋敷まで送ってくれたの。
「夕方にまた迎えにくるから」
「はい。ありがとうございます。ラーシュ様」
久しぶりの自宅、そのエントランスでラーシュ様と話していると、お母様が階段を下りていらした。
「まあ!リファーナ!全然家に寄り付かないで!どうしていたの?」
「え?」
お母様こそどうなさったの?私にそんなことを言うなんて……。
「勉強や聖地の音楽隊のお仕事が忙しいのは分かるけれど、少しは帰ってきて頂戴。皆さんもお話を聞きたがってらっしゃるのよ?」
皆さんって誰?どうして私に?困惑しているとお母様に手を引かれた。何年ぶりかしら……?そんなことを思いつつラーシュ様のそばを動かずにいたら、諦めたのか手を離してくれた。
「まあまあ!グラソン様、リファーナを送って頂いたのですね!ありがとうございます!」
「いえ。婚約者ですので当然の事です」
ラーシュ様が私に微笑みかけるのを見たお母様は少し頬を赤くした。
「やっと帰って来たか、リファーナ。まったく家に帰らずに親不孝な娘だ」
お父様もエントランスへやって来た。ラーシュ様が一緒なのを見て少し眉を顰めたけど、すぐに社交的な笑みを浮かべた。
「グラソン殿、ようこそ。娘がいつもお世話になっております」
まるでこの前の婚約者取り換え騒動なんて無かったみたいだわ。
「アグネータ嬢の縁談がまとまったそうで、おめでとうございます。リファーナ嬢をよろしくお願いします。夕方にはお迎えに上がります」
あ、ラーシュ様の氷のような微笑み……、ちょっと怖い。
「……それはご配慮ありがとうございます。しかし、ここは娘の自宅ですのでしばらくは……」
「聖地の音楽隊の練習など、予定が詰まっておりますので」
「しかし……」
「ああ、母のお茶会にも招待をされているのですよ。今回は急なことだったので何とか予定を開けたのです」
「侯爵夫人の……!そうですか。了承したしました。ではまた夕方、よろしくお願いします」
「では。また後でね、リファーナ」
ラーシュ様は私の手に口付けて帰って行ったの。ちょっと寂しい。それにしてもお父様、私を家にいさせたいのかしら……?どうして?
「さあ!リファーナこちらへいらっしゃい。貴女のドレスも用意してるのよ」
「お母様、私にドレスは必要ありません。この制服とローブが正装になりますから」
「でも……」
「今日の主役はお姉様でしょう?私が着飾る必要は無いと思います」
今私が身につけてる制服はもちろんスモールウッド学園のもの。ローブは実は花の聖地の音楽隊のものなの。入隊した時に支給されたんだけど、今まで隊員さん達が着てるのを見たことがない。滅多にない事だけど、世界各地にある他の聖地との合同演奏会の時にだけ身につける特別な物なんですって。良く分からないけれどラーシュ様にこれを着ていくように言われたの。
「いや、それでいい。アグネータより目立つ必要はない」
お父様の一言(何故かご機嫌だった)でドレスへの着替えは回避できたわ。良かった。実はお母様の趣味は華美すぎてあまり好きじゃないの。私には似合わないし……。
応接室に入ると着飾ったお姉様が退屈そうにソファに座ってた。相変わらず美人だわ。黙って座っていたら王女様って言っても信じてもらえそう。
「お久しぶりです。お姉様」
私が挨拶するとお姉様は私を睨みつけた。
「リファーナのせいで何もかも上手くいかないのだから協力しなさい。ふうん、でもまあ、その恰好は合格ね」
私、お姉様の言ってることが良く分からない。首を傾げていると、お母様が私を一人席に座るように言った。ここで私はお母様に疑問と不満をぶつけたの。
「あの、私が顔合わせの場にいる必要はあるのでしょうか?」
「貴女相変わらず馬鹿なのねぇ」
お姉様はいつもの通り馬鹿にしたように私を笑った。
「お相手様のご希望なのよ。こちらの屋敷で、私達家族全員にご挨拶なさりたいのだそうよ」
「そうなのですか……」
お相手の要望なら仕方ないのかしら。それにしても珍しくお母様が私にちゃんと答えてくれたわ。明日は嵐かしら。
「私の婚約者は公爵様なの。どこぞの侯爵家の次男様や公爵家の三男様とは格が違うのよ。失礼のないようにしてよね」
公爵様?お姉様の言葉に心が波立った。もしかして……でも、まさか……。
ノックの音と共に応接室に入って来たのは……。
「はじめましてセドリック・フローリアです」
この方は……!前の時に私の二人目の婚約者だった方だわ。金の髪、金の瞳の若き公爵様。女嫌いで有名だった方。いつも領地にこもって滅多に王都へは来ないから、引きこもりの氷の公爵令息様なんて陰で呼ばれてたらしいの。今もそうなのかしら。
お姉様より三歳、私より五歳年上のその人は前公爵の遅くに生まれた一人息子で、つい先日父である全公爵を亡くし、公爵家を継いだという事だった。
「よろしくお願いいたします」
にこやかに挨拶をしたその人は間違いなく、前に私が結婚するはずだった人で……。この人がアグネータお姉様の婚約者になるなんて、ものすごく驚いたわ。私がラーシュ様との婚約解消にならなかったからこうなったの?混乱しながらもなんとかご挨拶を終えて、後は若い二人だけでお話をということで私は席を外せることになったの。
私は裏庭に出て頭の中を整理していた。家の中にはいたくなかったの。だって今日は会えると思ってたサーラがお休みでいなかったから。急な知らせでサーラに手紙を送ることもできなくて、まさか今日お休みを取ってるなんて知らなくて……。サーラに会えるのだけが今日の楽しみだったからとてもがっかりしちゃった。
「驚いたけど、もしかしたら当然の流れなのかもしれない……」
セドリック・フローリア様
『はじめまして。よろしくね。リファーナと呼んでも?……ありがとう。私の事はセドリックと』
『おとなしいんだね。緊張しなくていいよ』
聞いていた印象とは違ってとても柔らかな物腰の優しい人だった。私は優しくされたことでそれがその方の全てだと思い込んだの。こんな私でも受け入れてもらえたんだって勘違いしたの。今、前のセドリック様を好きだったかって聞かれたら、違うって言える。だってラーシュ様の事を好きな気持ちとは全然違ったから。
お父様やお母様やお姉様に甘えられなかった分の優しさをセドリック様に求めていただけだったと思う。お兄様みたいな感じで。
「今度は本当のお義兄様になるのね。何だか変な感じ……」
一つ気になることがある。セドリック様は結婚式の前日私に
「他に好きな人がいる。君を愛することはできない」
って言ったのよ。逃げられない時を待って。今回はどうなのかしら……。やっぱりお姉様にも同じことを言うのかしら……。お姉様やお父様達にこのことを相談してみる?でも私の話を聞いてくれるかしら。三人ともとても嬉しそうにしてたし、水を差してしまうことになる。でも……。
ふいに髪に温かい気配が触れた。
「珍しい……。こんな所に精霊様が飛んでくるなんて……」
よく見たら庭木の花に精霊様達がいる。花の聖地にはたくさんの精霊様が集まって来るけど、聖地から離れれば離れるほど精霊様の姿を見ることは稀になるの。
髪を引っ張られる感じがする。
「歌?」
明滅する光とくるくる回るような動き。
「わかりました。でも少しだけね」
花の精霊様を讃える歌を口ずさんだら、とても喜んでもらえたの。ちなみに精霊様が喜んでくれるのがどうしてわかるのかというと光り方が変わるからなの。喜んでくれてるサインは精霊様の光が大きく強くなること。庭木の花にいた他の精霊様達も集まって来て私の周りを飛び回ってくれた。楽しそうな気配に私も嬉しくなる。
突然草を踏みしめる音がして振り向くと、セドリック様がいた。
「これは……なんとも……!」
物凄く驚いたけどなんとか礼を取ることができた。セドリック様も裏庭に私がいて驚いたみたい。
「セドリック様!お待ちくださいませ!そちらには何もありませんわ!」
アグネータお姉様が後から追いついて来てセドリック様の腕を掴んだ。二人はお庭を散歩していたみたいね。
「まあ、リファーナ!こんな所で何をしてるの?さっきグラソン様が迎えにいらしてたわよ」
お姉様はセドリック様の腕に腕を絡めて引っ張って行こうとしてる。ラーシュ様、迎えに来てくれたんだ。夕方より早いけど、もう用事は終わったし帰っても大丈夫よね。
「フローリア様、アグネータお姉様、私はこれで失礼いたします」
ご挨拶をして私はひとまずその場を去ることにしたの。
一度気になって振り向いた時、お姉様とフローリア様は楽しそうに笑ってた。もしかしたら、今は前の時とは違うのかもしれない。そう思って少し安心したの。私が気をもむ必要は無いのかも。っていうか私が口を挟むなんて無理だわ。なんて言うの?前の時には他に好きな人がいるって仰ったでしょう?なんて言えないもの。仮に何かあったとしてもそれは今度はあの二人の問題よね。
あれ?前を向く間際、フローリア様と目が合ったような気がする……?気のせいかしら。
早くラーシュ様の所へ戻ろう。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!
明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします




