冬の初めのダンスパーティー
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冬の初めのダンスパーティーは一年の年明け、スモールウッド学園高等部の冬のお休みの終わりに行われるの。
「明日は練習は休みにしよう」
「え?でも」
「ダンスパーティー、付き合ってくれるでしょ?」
「あ」
「忘れてた?」
「いえ、あの……」
忘れてた……。
秋の精霊祭が終わった後から、ラーシュ様の特訓が始まった。私は無事に受験資格の、ミント先生からの推薦状を貰えて願書を提出できた。お父様にも許可を貰いに行ったのだけど、「好きなようにしなさい」と相変わらず私に興味が無さそうだった。保護者の同意サインも面倒そうではあったけど普通にしてくれた。正直これが一番の難関だと思ってたけど、あっけなくて拍子抜けしちゃった。どうせ受からないって思われたのかもしれない。
ラーシュ様は来年、三年生の時に受験するからって私の為に冬休みも返上で課題曲二曲の練習に付き合ってくれた。そんなラーシュ様の言葉を断ることはできなかった。
「練習ばかりじゃなくて息抜きも必要だよ。ね?」
「は、はい」
外はとても寒いけどダンスパーティーの会場、スモールウッド学園の講堂は温かくて明るかった。
マーガレット様は以前とは違う男子生徒と一緒にいらしてた。マーガレット様は美人だし男子生徒達にとても人気があるから、婚約者がいなければこれからも争奪戦なんだろうな。……どうなるんだろう。
「また後でお話しましょうね」
そう言って微笑んだマーガレット様はクリーム色と蜜色のドレスが良く似合ってて可愛かった。
クレソニア様とアグネータお姉様も見かけたけどいつもと変わらずに仲が良さそう。やっぱりあの精霊祭の時の男の人達とは何もなかったのかしら。もしもそうなら、お二人の婚約解消は無くなる?そうならとても嬉しいわ。ロッティー様も見かけたけど、メリッサ伯爵令息様と仲良さげにしてらした。あれから全然お話ししてないわ……。寂しいけれど仕方ないのよね。
「ラーシュ様、今回もとても綺麗なドレスを贈っていただいてありがとうございました」
「水の精霊をイメージしたんだよ。リファーナは青も似合うね。さあ、踊ろうか」
「はい」
ラーシュ様とのダンスは楽しい。そっか、純粋にダンスパーティーを楽しめるのは今日が最後かもしれないわ。だって卒業を祝うダンスパーティーではお姉様が婚約を解消されて、ラーシュ様と……。その日は気が気じゃないと思うし。十日後の試験に落ちてしまったら、新しい縁談を断る理由も無くなってしまうもの。もう一つ結婚を回避する方法があるかもしれないけれど、それは望み薄なように思える。だから今日は、今日だけはしっかりダンスを楽しもう。
何曲か踊った後、さすがにちょっと疲れたなって思っていたらラーシュ様が講堂の壁際へ連れて行ってくれた。ラーシュ様は私の事をよく見てくれていて、本当に優しい人だわ。
「ちょっと待ってて、何か飲み物を持ってくるから」
「はい。ありがとうございます」
ダンスパーティーの会場はとても華やか。女の子達の色とりどりのドレスが音楽に合わせてふわふわ舞っていてとっても綺麗。目の保養だわ。最近は練習ばっかりだったけど来て良かった。あ、ラーシュ様が女の子達に囲まれちゃってる。ラーシュ様カッコいいから無理もないわ。これはしばらく戻って来れないかも。胸がちくんと痛んだ。来年のこのダンスパーティーではアグネータお姉様をエスコートするのかな……。うわぁ、胸がズキズキする。駄目だわ。考えないようにしよう、うん。
ぼんやり会場を眺めてたら、ふいに目の前に影が落ちた。
「スティーリア嬢、よろしければ僕と一曲踊って頂けませんか?」
「エバンズ様?でもエバンズ様は最近婚約なさったのでしょう?婚約者の方はどうされたのですか?」
「あっち」
ああ、ラーシュ様を取り囲む女の子達の中にいらっしゃるのね。これは断りづらいわ……。婚約者以外と踊ってはいけない訳じゃない。むしろ交流を目的としているから積極的に親交を深めるのは推奨されてる。
「わかりました。一曲だけでしたら」
「やった!ありがとう!」
何故なの?エバンズ様と踊った後、次々とダンスを申し込まれるようになってしまった。困ったわ。作り笑いもそろそろ限界だわ。顔がぴくぴくしてきた……。ラーシュ様とのダンスはここまで疲れたりしないけど、他の人とのダンスは一曲ごとにとっても疲れるの。
「次は僕と踊っていただけますか?」
「申し訳ございません。少々疲れてしまったので、休ませていただきます」
「酷いなぁ。他の奴とは踊れて僕とは踊れないの?」
「い、いえ、そういう訳では、本当に私……」
この方は見覚えがある気がする……。誰だっけ?あ!たぶん精霊祭の時にお姉様と一緒にいた方だわ。一番背が高くて、少したれ目のブロンドの人。
「あれ?本当にちょっと顔色が良くないみたいだね。じゃあ、せめて僕と話をしようよ。あっちのバルコニーなら静かだから」
「いえ、私は……。困ります」
静かだから駄目なんじゃない?婚約者以外の異性とそんな所で二人きりなんて。
「前から君の事気になってたんだよねぇ。精霊祭の開会式見たよ。歌上手いよね、君って。アグネータ嬢とは正反対だね。大人しくて可憐で可愛らしいなぁ」
「あの、私には婚約者がいますので、そういったことは……」
やっぱりお姉様のお友達の方だった。強引に腕を引かれそうになって恐くなった。
「婚約者?別に大丈夫でしょう、このくらい。だってちょっと話をするだけだよ?さあ!」
「い、いえ、あの……困ります」
どうしよう。全然引いてくれないどころか、この方私の話を聞く気も無いみたい。怖い……。どうしてお姉様はこんな方とお友達なの?
「へえ、反応も姉上と正反対なんだ。これはそそられるね」
お姉様、一体どんな反応したの?!
「失礼。アナキン様。僕の婚約者は少し体調が悪いようなので、解放していただけますか?」
「……やあ、グラソン殿。そうでしたか?それは気が付かなかった。仰って下されば良かったのに」
平気で嘘をつける人なのね。
「申し訳ございません」
「では、失礼」
アナキン様は打って変わって紳士の微笑みで立ち去って行った。よ、良かった……。まだちょっと体がふるえてる。
「おいで、リファーナ」
ラーシュ様は壁際の人のあまりいないベンチに座らせてくれた。
「ごめん。一人にして。中々放してもらえなくてね。今夜はみんないやにしつこかったな」
「いいえ、私も上手く断れなくて……」
ダンスパーティー、苦手になりそう。
「エバンズの婚約者が僕の方にいたからだね」
ラーシュ様、どうしてそんなことわかるんですか?
「それにしても皆さんどうして私なんかに……」
「それは仕方が無いかもね」
ラーシュ様はため息をついた。
「どうしてですか?」
「演奏会や精霊祭の歌は評判になってる。精霊祭の後も何度か演奏会に出たでしょ?それから歌姫様から声を掛けられたことも、知れ渡ってるから」
「ええ?!そうなんですか?」
貴族の情報網恐るべし。あの夜、周りにそんなに人いなかったのに……。
「それに何より、リファーナは綺麗だから。男達が放っておかないんだよ」
「…………はい?」
いやいやいや、綺麗な人ならあっちにもそっちにもいっぱいいるのに。
「自覚無しか。リファーナはとても綺麗なんだよ」
ラーシュ様の手が私の頬に触れた。ラーシュ様の綺麗な緑色の瞳が揺れて、少し躊躇うような表情に見えた。ラーシュ様は最近になって時々そんな顔をしてる時がある。気になって聞いてみたことがあったけど、何でもないよって笑うだけだった。
最後の円舞曲が始まった。
「さあ、良かったら、もう一度踊ってくれる?疲れてなければ」
「私、ラーシュ様と踊りたいです。もう他の人とは踊りたくない……」
私はラーシュ様の腕にぎゅっとしがみついた。堂々と隣にいられるのは最後になるかもしれない。だからちょっとだけ甘えてしまいたかった。
「……っ」
ラーシュ様は息を呑んで何かを言おうとしてたけど、何も言わなかった。びくりとラーシュ様の体に力が入った。嫌だったかな……。困らせてしまってる?でも少しだけ許して欲しい。今はまだ私がラーシュ様の婚約者だから。
私はラーシュ様との今夜最後のダンスを心から楽しんだ。
もう他の人とは踊りたくない。そうできるようにも私は聖地の音楽隊の試験、絶対に受かろうって心に誓ったの。
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