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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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試験

来ていただいてありがとうございます!



「よし。筆記試験は楽勝だったわ!」


試験は聖地にある音楽隊の建物で行われた。花の聖地の街、塔の近くの湖に面してるとても綺麗な場所だった。簡単な筆記試験の後、一人一人が順番に実技の試験会場に通された。


通されて驚いたことが二つ。一つ目は扉を開けたら湖だったこと!正確に言うと正面の壁が一面窓というか扉になっていて広いバルコニーに繋がっていた。良く晴れた冬の青空とあたたかな日差しとキラキラ輝く湖面。水と光と風の精霊様達がたくさんいらっしゃるわ。とても綺麗だったけど……寒い。風が吹き抜けてく。どうりでコート着用な訳ね。私は内心ため息をついた。ちゃんと歌えるかしら……。


審査をしてくれる隊員の方々はというと完全防備な姿でたくさん着込んでるみたい。向かって左側に長テーブルと椅子があって六人の隊員の方々(たぶん)が並んで座ってる。今年の受験生は十人ほどだったけど、どのくらい時間がかかるのかしら。ずっとここにいたらかなり冷えてしまいそう。


ここで驚いたこと二つ目!何と!審査をしてくれる方々の中に精霊の歌姫様がいらっしゃったの!!結構なご高齢だと聞いてるけど大丈夫なのかしら……。心配で見ていると歌姫様はにっこり笑って小さく手を振ってくれた。私も軽く会釈して答えたわ。湖がすぐ前に見えてるけれど、前の時にここに落ちたのに恐怖感も無い。大丈夫そう。



「リファーナ・スティーリアさんですね。筆記試験は問題ありませんでした。次は歌の実技を見せていただきますが我々はあくまで見届け人です。あちらを向いて。そう。では始めて下さい」

「リファーナ・スティーリアです!よろしくお願いいたします」

ん?見届け人ってどういうこと?良く分からないけれど私は前に進み出た。あちらと示されたのは湖の方。精霊様達がいる方に向かって歌うのね。課題曲は二曲。どちらを歌ってもいいし両方歌ってもいいと言われてる。この点も良く分からないけれど、とにかく得意な方を選べばいいんだと思ってる。そしてチャンスは二回あるってことね。幸い両方ともそんなに難しい曲じゃなかったし、一応二つとも練習はしっかりしてきた。


本当に綺麗だわ……光の精霊様と水の精霊様が踊ってるみたい。



私は課題曲の一つ、光の精霊様を讃える歌を歌い始めた。冬の寒さの中でも温かな光を届けてくれる精霊様に感謝しながら。冬の晴れた日に窓から差し込む光。春の花を輝かせてくれる光。夜に闇を照らしてくれる月や星の光。心を込めて歌った。


あ、精霊様達がたくさん集まって来てくれた。喜んでもらえてるみたい。良かった。緊張していたはずなのに自然と笑顔になれた。励まされてるような気がする。ありがとうございます、精霊様達。




「そこまで」

パチパチパチパチ…………。え?拍手?審査員の方々から?なんで?

「確かに見届けました」

「え?」

「実技試験は終了です」

「お、終わりなのですか?あともう一曲ありますけど」

私は二曲歌うつもりでいたの。両方きちんと練習してきたけど、どちらが受(・)け(・)る(・)か分からなかったから。

「必要ないでしょう」

頷き合ってる審査員の方々に困惑する私。そんな……。一曲だけで不合格?何とかもう一度歌わせてもらわないと……。


「おめでとう。合格ですね」

歌姫様がにっこり笑ってる。

「え?え?」

「言ったでしょう?我々は見届け人だと」

「歌の技術は及第点以上でしたね」

「選んだのは精霊様達ですよ」

そういって審査員の方の一人が私の周りを飛んでる精霊様達を手で示した。

「あ、じゃあ、試験って」

「そう。聖地の音楽隊は精霊様に選ばれた者だけが入れる音楽隊なのよ」

歌姫様が人差し指を口元に立てて、片目を瞑った。わあ、なんて可愛らしい方なの?!私もこんな風になりたい。

「我々の仲間へようこそ!」

「あ、ありがとうございます!」


受かった……。私、受かったんだ!!やったわ!!これで私は何があっても自由に歌い続けることができる!

ラーシュ様に一番に伝えたい。そしてお礼を言いたい!あなたのおかげですって!!そして、私の気持ちを伝えたい。家同士で決められた婚約者だけど、ラーシュ様の事が好きですって。恋人同士になりたいって。だってこんな私が聖地の音楽隊に入れたんですもの!きっと前とは何かが違うんだわ。もしかしたら、婚約解消にならなくて済むかもしれない。そうよ、アグネータお姉様とクレソニア様は今も仲良しなんだもの。ダンスパーティーでも楽しそうに踊っていたわ。お姉様の交友関係は少し気になるけど……。今の私は何でもできそうな気がしたの。






「まだお昼過ぎだし、午後の授業が終わるころには学園へ帰れるわよね」

入隊のための書類を胸に抱き締めて馬車に揺られ、スモールウッド学園へ帰りつく頃には午後の授業が終わってしばらく経ってしまっていて、生徒の姿はまばらになっていた。昨日降った雪のせいで道がぬかるんで、車輪をとられてしまったの。。それでも試験の終了時間は夕方の予定だったから、随分と早く帰って来られたことになる。


本当ならミント先生に最初に報告に行くべきだけれど、確かここ何日かは体調不良で今日もお休みだったはず。やっぱりラーシュ様の所へ行こう!ラーシュ様、喜んでくれるかな?

「この時間はラーシュ様はいつも音楽室にいらっしゃるはずだわ」

いつもの音楽室に入ろうとしたら、扉が開いていて話し声が聞こえてきた。


ラーシュ様と……誰?そっと部屋の中を窺うとそこにいたのは……。


嘘……アグネータお姉様……?


二人が話をするのは不自然じゃない。同じ学生同士だもの。でも、どうして?どうして抱き合ってるの?胸の鼓動が大きくなる。耳にもどくどくと響いてくる。自分が見ているものが信じられない。



お姉様泣いてるみたい。会話の内容は聞き取れないけれど、ラーシュ様が宥めてるみたい。ラーシュ様の顔は見えないけど、優しい声。美男美女でお似合いだわ……。私は飛び出して咎める事も出来ずにその場から踵を返して走り出した。


いつ?いつからだろう?いつからふたりはあんな風だったの?クレソニア様は?マーガレット様はどうなったのかしら。やっぱり……やっぱり前と同じになっちゃうの?そうよね。私は逃げてばかりでラーシュ様に何も伝えて来てないもの。今もそう。私が婚約者なんだからラーシュ様を責めてもいいのに、怖くてできない。そんなことをしたらすぐに婚約が解消になってしまって、もうそばにいられない。


「そんなのは嫌…………」

もう少しだけ、あともう少しだけでいいからラーシュ様の一番近くにいたい……。



私はまた逃げてしまったの。







「ずいぶん暗くなっちゃった……。寒いわ。カフェにでも入れば良かった……」

どこへも帰りたくなくて街を彷徨い歩いて、やっと寮の前に戻って来た。


大丈夫。大丈夫。予定通りじゃない。聖地の音楽隊には合格できたもの。後は次に来る縁談を拒否すればいいだけでしょう?そうすれば私は愛の無い結婚を避けられて、大好きな歌を精霊様に捧げて生きることができる。大丈夫。大丈夫。


自分に言い聞かせて歩き回った。婚約解消になっても、新しい恋を見つけて………………いらない、そんなの。私、ラーシュ様がいい……。でもラーシュ様は優しいから、お姉様のことを好きでも私の事を優先してくれてたんだわ……きっと。だから私は……。



「リファーナ!!遅かったじゃないか!もう少ししたら迎えに行こうと思ってたんだよ?もし今回駄目でも落ち込むことは……」

やっぱり優しいなぁラーシュ様、寒いのに心配して寮の前で待っててくれたんだ。

「合格しました」

私は鞄にしまってあった書類を出して見せた。

「え?」

「春から聖地の音楽隊の一員です!私はまだ学生なので本格的な活動は卒業してからだそうです」

私、ちゃんと笑えてる?


「そう、そうなんだ!おめでとう!リファーナ!!」

ラーシュ様は私を抱きしめてくれた。さっきの音楽室の事を思い出してしまって、つい体が硬くなってしまう。私はそっとラーシュ様から離れた。

「リファーナ?」

「ラーシュ様のおかげです!」

「そんなこと無いよ。リファーナが頑張ったからだよ」

「ありがとうございます!私はもう大丈夫です!本当に今までありがとうございました!」

「?ううん。来年は僕も頑張るよ。これからも二人で頑張ろう」

「…………はい」

涙が出そう。でも大丈夫。ちゃんと笑えてるはず。それに暗いからそんなにはっきりとは見えないわよね。


「まさか歩いて帰って来たんじゃないよね?こんなに冷えて。早く部屋へ戻って温まらないと。熱を出してしまうよ」

温かい手で頬に触れてくれるラーシュ様。優しいラーシュ様。笑ってくれるラーシュ様。前の時は知らなかった。知れて嬉しかった。でも知らなければこんなに苦しくなかったのに。





お日様の残光が赤く薄く空の低い所を染めてる。暗くなった空には明るい星が一つ光ってる。私は星の精霊様に願った。


どうかあと少しだけ私に時間をください。ラーシュ様の幸せを一番に願える私になってみせるから。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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