三日目の夜
来ていただいてありがとうございます!
「はあ、今年も素敵でした……」
「本当ですわね」
「さすがは精霊の歌姫だね」
塔が見える夜の花畑、暗い湖の上には精霊様がたくさん飛んでる。さっきまで精霊の歌姫が塔の上で精霊祭の最後を飾る独唱を披露していたの。塔は精霊様達の光がたくさん集まっていてさながら光の塔みたいだった。
結局足の痛みが完全には引かなくて、ラーシュ様に外出禁止を言い渡されてしまったの。でも最終日の夜の精霊の歌姫様の歌だけは聞きたいってラーシュ様にお願いした。
「僕が抱いていくのが条件だよ」
「もう大丈夫です!そこまでしていただかなくても」
本当に痛みは殆ど無いのに。何度そう訴えても、
「駄目」
「あの……」
「だーめ」
「ラーシュ様……」
「…………」
「…………お願いします」
押し切られてしまった。
そんな訳で私は再びラーシュ様に抱き上げられて運ばれてしまったのだった。物凄く恥ずかしかったけど、ラーシュ様はあまり人が多くない通りを選んでくれたみたい。それでも顔を上げられなくてラーシュ様の胸に顔を伏せてしまった。
「重くないですか?やっぱり私」
「全然」
「あの、ラーシュ様は恥ずかしくないんですか?」
「全く。役得だと思ってる」
「や、役得?」
「そう、婚約者の役得。それにリファーナからくっついてくれて嬉しいな」
「っ!ラーシュ様……」
「そんなに離れたら危ないよ」
ラーシュ様そんなに力を入れないで……。何だかさっきよりラーシュ様の顔が近づいてる。ラーシュ様楽しそう。またからかわれてる気がするわ。早く湖に着いて……。
そんなこんなで夜の花畑に着いてマーガレット様と合流したの。マーガレット様は手にいっぱい食べ物を持ってた。それを私やラーシュ様に分けてくれたんだけど、クレソニア公爵家から来た護衛(?)の方もバスケットを持っててそっちにもまだ入ってるみたい。たくさん買ったのね……。食べきれるのかしら?
そして塔から聞こえてくる歌声を堪能した後マーガレット様はヴィオリアを取り出した。アンさんが楽器のケースを持ってるなって思ってはいたけど、まさかここで出すとは思わなかった。
「リファーナ様、合奏しましょ!」
「ええ?今ここでですか?」
私は周囲を見回した。歌姫様の歌が終わって帰ってしまった人もいたけど、余韻を楽しんでる人達もかなりいるのに……。
実は秋の精霊祭では以前から街のあっちこっちで自由に歌を歌ったり、踊りを踊ったり、楽器を演奏したりしてたの。やがて小さな舞台が町中にいくつも設置されるようになった。この花畑には舞台は無いけれど、歌姫の歌が始まるまでは楽器を持ってきて演奏してるおじいさんもいたわ。
「ほら、お約束したでしょう?一緒に演奏しましょうって」
マーガレット様のもってる楽器に精霊様が集まって来てる。催促してるみたい。
「わかりました」
今歌うのは歌姫様と比べられてしまって、少し恥ずかしい。でも暗いから顔は見えないだろうし、マーガレット様と約束もしてたしって思ったの。
マーガレット様が奏でだしたのは星の精霊様を讃える曲。この曲は最近ラーシュ様と選抜チームの練習の合間に一緒に練習してた曲だわ。大丈夫、歌える。
歌い始めると精霊様達がたくさん集まって来た。周りの花々に明かりが灯ったみたいでとても綺麗。ラーシュ様も眩しそうに見てる。曲が終わると拍手の音。結構たくさんの人が聞いてくれてたみたい。その中のひとつが近づいてくる。
「お二人とも素敵でしたわ」
美しいドレスを身につけた初老の女性。あれ?この方はひょっとして……?うわぁっ!!精霊の歌姫様だわ。ご高齢だから聖地の音楽隊の練習にはほとんど参加されてない。だから直接お会いしたことは無いけれど。間違いなく本物!こんな間近で見ちゃった。でも何でこんな所に?
精霊様達が喜んで歌姫様の周りを飛びはじめた。本当に愛されてるんだわ。
「お初にお目にかかります。アップフィール王国より参りました、マーガレット・オルコットでございます」
「まあまあ、ご丁寧にありがとうございます。音楽隊で歌わせていただいているエミリアです。貴女のヴィオリア、とても深い音色で素晴らしかったわ」
「お褒めに与り光栄ですわ。歌姫様」
「貴女が歌を歌ってらした方ね」
「は、はじめまして!リファーナ・スティーリアでございます。歌姫様」
「まあ、ほほほ。もう歌姫なんて年齢じゃないのよ。そしてお久しぶりね。ラーシュ=オーラ・グラソン様。おばあ様とお母様はお元気ですか?」
「はい。祖母は領地にて元気にしております。母は今は外国を旅行中です」
ラーシュ様達は歌姫様とお知り合いなの?知らなかったわ……。
「まあ、相変わらずなのね。もしかしてこちらのお嬢様は」
「はい。僕はこちらのリファーナ嬢と婚約させていただいております」
ラーシュ様の言葉につい俯いてしまう。この先の事はわからないのに。
「まあ、そうなの。おめでたいことですね」
「最近とても熱心な学生さんがいて、才能もとても素晴らしいと聞いてるわ。きっとあなた方の事ね。今度私と一緒に合奏をしていただけるかしら?もちろん、貴方のクラヴィーアも一緒にね。きっと精霊様達もとてもお喜びになるわ」
「光栄です」
「是非お願いいたしますわ」
「ありがとうございます!」
褒められちゃった!!お世辞だったとしても嬉しい!
「スティーリア様、貴女には是非聖地の音楽隊に入って欲しいわ」
歌姫様は私の手を握ってそう仰ったの。
「はい!私の目標は聖地の音楽隊に入ることなんです!」
「スティーリア様なら、この冬の試験にも合格できそうね。できるだけ早く入隊していただけると嬉しいわ」
「っ!本当ですか?ありがとうございます!頑張ります!」
「……リファーナ?」
「そうしたら、一緒に歌を歌える機会もできるわ。楽しみね」
「はい!」
歌姫様はにっこりと微笑むと、待っていたお付きの方達に守られるように立ち去ってしまった。
「ラーシュ様は歌姫様とお会いしたことがあったんですね」
マーガレット様とお別れして、グラソン侯爵家の別邸に戻った私はラーシュ様に聞いてみた。
「うんと小さい時にね。でも正直あまり覚えてないんだ。祖母と母に連れられて、どこかで歌を歌うのを見ていた記憶はあるんだけど」
「そうだったんですか……はあ……」
歌姫様とお会いできてお話までしちゃったわ。私は感動の余韻に浸って、ぼーっとしていたの。
「リファーナは凄いね」
「え?」
「とうとう当代の精霊の歌姫に認められたんだよ」
「そんな……。それを言うならマーガレット様だって」
「あの方は精霊の歌姫だよ?歌に関してはとても厳しい方だと聞いてる。物腰はとても柔らかだけどね。リファーナの歌声に魅かれてあの場所へ来たんだ。僕達の事はおまけだよ」
「そんなことは無いと思いますけど」
「リファーナはこの冬の試験を受けるの?」
「え?えっと、はい。そのつもりです」
しまった。そういえばラーシュ様には言ってなかったんだったわ。
「どうして?そんなに急がなくてもいいんじゃない?受験は三年生になってからというのが通例だよ?」
「…………私はチャンスがあるなら活かしたいと思ってます。なるべく早く聖地の音楽隊に入隊したいんです」
そうよ。私にはたぶん今回しかチャンスがないんだもの。ラーシュ様との婚約解消の後はすぐに別の縁談が来てしまう。お父様は前の時となんら変わりが無いから、これは確定事項なんだと思ってるの。
受験するには推薦状が必要になる。選抜チームの指導をしてくださってるミント先生に聞いてみたの。選抜チームに毎年選ばれてるし、何度も聖地の音楽隊の練習にも参加してる。だから私には受験資格はあるって言われたの。
「ミント先生にお伺いしたら、受験に必要な推薦状を書いていただけると仰っていただけたので」
「……どうしてそこまで……」
「私は早く自立したいんです」
「僕では…………」
ラーシュ様はそのまましばらくの間押し黙って考え込んでた。
「……わかった。それなら協力するよ」
「え?」
「僕も応援する」
「ありがとうございます」
ラーシュ様、笑ってるけど、どうしてそんなに寂しそうなの?
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




