お叱りとおやつ
来ていただいてありがとうございます!
ラーシュ様と私がお屋敷に戻るとマーガレット様はクレソニア様に叱られてた。
「心配したんだぞ!」
「むー」
マーガレット様はむくれてる。
「グラソン侯爵家にも、リファーナ嬢にも迷惑をかけて、怪我まで」
「う……。それは本当にごめんなさい」
あ、今度は涙目だわ。待って、それは違うわ。
「あ、あの!私の怪我は自分のせいなので!勝手に転んだだけなんです!私こそご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありません!」
マーガレット様を追いかけるどころか何の役にも立たないで、情けないわ、私。
「リファーナ、君には僕がお説教だよ」
「え?で、でも、ラーシュ様」
まだ抱き上げられたままの私はそのまま別室へ連れて行かれた。
部屋を出る前にマーガレット様と目が合う。そして何となく通じあう。
「アグネータお姉様の事は内緒ね」
って。
「救護隊のテントにいた男とはどういう関係?」
小さな書斎は窓が開いていてお祭りの賑やかな声や音が小さく聞こえてくる。ラーシュ様は私を隣に座らせて尋問を始めた。
「えっと、エバンズ様のことですか?クラスが一緒なんです」
「それだけ?どんな男なの?」
「えっと伯爵令息様だったと思います」
それから、どんな方だっけ……?
「えっと……、エバンズ家は確か王国の北東の方に領地があったはずで、主な産業は畜産。あ、なんだか音楽にご興味があるみたいです」
まずいわ。エバンズ様のお名前が思い出せない。クラスメイトの名前を覚えてないなんて……。えっとえっと。
「そう!ジョーイ・エバンス様!」
だった気がする。
「……ジェイク・エバンス伯爵令息」
違った……。ちょっと惜しかった……?そういう問題じゃないわね。
「…………」
ああ、ラーシュ様が顔を押さえて俯いちゃった。呆れられたわね、きっと。
「ごめんなさい」
「っあははははははっ」
ええええ?ラーシュ様が声をあげて笑ってる?
「もういいや。おやつにしようか」
「え?」
「今日はリファーナの好きなショコラのケーキがあるよ。ふんわり系のね」
実はマーガレット様が見つかって安心したせいか、お腹が空いてたの。お茶の時間は過ぎてしまってるし。
「わあ!嬉しいです!ラーシュ様ありがとう!!」
「…………っ!」
ラーシュ様はふいっと顔を背けてる。心配をさせてしまったのに物凄く喜んじゃった。また怒らせちゃったかしら……。気になって顔を覗き込んだ。
「ラーシュ様?」
「……リファーナはずるいよね」
ラーシュ様はこちらを見ずにぼそっと呟いた。え?私何かした?
今日のおやつのショコラのケーキはツヤツヤのショコラがかかった、断面の層がとても綺麗なケーキ。二種類のショコラのクリームのお花がのってて、キラキラ光る粉がかかっててとても素敵だった。闇の精霊様と星の精霊様を表現したケーキなんだって!叱られ終わったマーガレット様もクレソニア様も一緒に四人でお茶を飲んだの。
とりあえず私の怪我もあって今日は私もマーガレット様も外出禁止になっちゃった。私は足が痛くて歩けないからいいんだけど、マーガレット様は不貞腐れてた。お茶の後で二人で私に用意された部屋に移動して、私にだけ話をしてくれた。マーガレット様はアグネータお姉様達に追いつくことができて、少し話をしたんですって。
『スティーリア様!ご婚約者がいらっしゃるのにどうして他の殿方と歩いていらっしゃるんですか?』
『あら?彼らはただのクラスメイトですわよ?オルコット様。友人とお祭りを回って何がいけないのでしょう?』
お姉様は悪びれる様子が無かったって。
『ア、クレソニア公爵令息様がご覧になったら、良い気持ちがしないと思いますわ!』
『貴女だって、婚約者のいる殿方との距離が近いのでは?』
『貴女に誤解を与えてしまったのならお詫びしますわ。けれどクレソニア様と私は親戚です。そのような関係ではありませんし、適度な距離を保っております!』
『私も同じですわ。皆さんと仲良くしているだけで、とても適切な距離感でお付き合いさせていただいております』
ちらっと見ただけだけど、とてもそうは見えなかったのに。
『そうだ!よろしければ、オルコット嬢、貴女もご一緒にお祭りを回りませんか?』
『そうですよ!人数が多い方が楽しいし!』
男性陣の中にはそう言ってマーガレット様に手を伸ばしてくる人もいたそう。
『さあ!ご一緒に!』
「そう言って手を取ろうとなさるんですもの」
ああマーガレット様、怖かったのかもしれない。手が震えてるわ。姉のせいで申し訳無いことをしてしまった。
「張り倒してやろうかと思いましたわ!」
あれ?思ってたのと違うみたい。ふんっと拳を握り締めてる。マーガレット様ってお強いのかしら……?その後はアンさんが追いついて、ヒースコートさんも来てマーガレット様は連れ戻された。
「あの方達は人ごみの中に消えて行ってしまいました……」
マーガレット様は悔しそうに呟いた。
ラーシュ様が救護隊のテントに来てくれたのは、ヒースコートさんが予めお屋敷の人達に手配してラーシュ様に知らせてくれたからだった。お屋敷の方々が皆さんで連携を取ってくれてた。ヒースコートさんはまだ二十代くらいでとても年が近い感じなのにとても優秀な方なのね。実は救護隊のテントの近くにもお屋敷の人がいてくれたって聞いた。エバンズ様は私の知り合いみたいだったから、声はかけずに様子を見ていてくれたそう。
「本当にごめんなさいね。私のせいで怪我をさせてしまって」
「え?いいえ!帰って来た時に申し上げましたけど、怪我は私のドジのせいです。マーガレット様はお気になさらないでください!軽かったみたいで痛みも引いてきました」
「そう……。なら良かったですわ……」
「こちらこそ、姉が失礼なことをしてしまって申し訳ございませんでした」
「いいえ。失礼という程の事じゃないですわ。それにリファーナ様は何も悪くないわ。ただ、あの方はどういうおつもりなのでしょう……。あれではアンソニーが可哀そうだわ」
「はい……」
本当にどういう事なんだろう?それともあの位は普通なのかしら……ううん、それは無いわ。それに私だったら嫌だもの。ラーシュ様以外の男の人に触られたりするのは。
「この事は誰にも内緒にしておいてくださいますか?」
「え?ラーシュ様にもですか?」
「ええ。お祭りで羽目を外しただけかもしれませんし、折を見て私からそれとなくアンソニーに聞いてみますから。アンソニーを悲しませたくないのです……」
「……わかりました」
私は妹だけど当事者じゃないものね。アグネータお姉様に問い質しても、私じゃ相手にもされないだろうし。
「はあ……」
マーガレット様落ち込んじゃってる。何か楽しい話題ないかしら。
「そうだ!明日はお祭りに行けそうで良かったですね!」
秋の精霊祭の二日目の明日はクレソニア公爵家の方がついて行ってくれるそうなの。クレソニア様は……アグネータお姉さまと一緒に出掛けるんですって。
「でもリファーナ様は行けないのでしょう?」
ああ、まだしょんぼりなさってる……。
「私は毎年ラーシュ様と行っていますし、最終日の夜には見て回るつもりですから大丈夫です。歌姫の歌や聖地の音楽隊の演奏も聞きたいですし。塔から少し離れた花畑なら人も少ないし穴場なんですよ」
「まあ!私も行きたいわ!いいかしら?二人のお邪魔になってしまう?」
「いいえ。人が少ないというだけで、二人きりという訳ではないので大丈夫です」
穴場なんだけど、毎年少しずつ広まってるのか人が増えて来てるのよね。
「それじゃ、最終日の夜にまた会いましょうね!」
あ、笑顔、可愛らしい!良かった。元気になってくれたみたい。マーガレット様は夕方にはクレソニア様と一緒に帰って行った。
アグネータお姉様は一体どうしてしまったの?前の時、クレソニア様が心変わりをして婚約解消になったって聞いてたけれど、本当の所はどうだったんだろう?確かめる術はないけれど、もしかしたら心変わりの理由がお姉様にあったとしたら……?でも仮にそうだとしても婚約解消になって、ラーシュ様がお姉様と婚約するのは変わらない。前の時の私の認識とあまりにも違う状況に私は少し混乱していた。
「また遠くを見てる……。何か考え事?」
つらつらと考えながら暗い廊下で窓の外をぼんやり眺めていたら、ラーシュ様が近くに来ていたの。
「ラーシュ様、お庭に精霊様が来てますよ」
私が指さす先には庭に植えられた背の高い木に花のように光ってる精霊様の光。
「……本当だ」
ラーシュ様が隣にいてくれる。こんな時間が次の冬に終わってしまうかもしれない。……嫌だな。
「ずっと一緒にいられたらいいのに」
「え?」
「え?」
あ、私、今声に出してた?しまった……。
「な、何でもありません」
走って部屋に帰ろうとしたけど、できない。足まだちょっと痛い……。ラーシュ様に捕まってしまった。
「なんでもなくは無いよね?」
「…………」
「僕には話せない?」
「…………」
「いいよ。でもいつか話せる時が来たら話してよね」
「…………」
「ずっと一緒だから。もう泣かないで」
ラーシュ様の優しい声に答えることができない……。でもこの温かい腕の中から逃げることもできない私は卑怯者だわ。
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