追跡
来ていただいてありがとうございます!
「あ!マーガレット様!あんな所に!」
お祭り初日、しかもまだ明るい時間帯で良かった。三日間のお祭りの期間では一番人出が少ない時間だからか、マーガレット様は意外とすぐに見つけられた。
広場に面した一番背の高い建物の壁にへばりついている。ん?へばりついてる?
「マーガレット様、何をなさってるのかしら?」
マーガレット様のいる場所は時計塔だ。その隣接する建物との間の路地の方を覗き込んでる。広場には露店や屋台が出ていて、人も多かったけど何とか私と侍女さんと家令さんはマーガレット様のいる場所に辿り着いた。
「マーガレットさま!何をなさってるんです?お一人で外に出るのは危険で……」
口を塞がれた。
「しっ!ご覧になって!あそこ!」
マーガレット様は低い声で呟いた。私もそっと路地の方を覗いてみた。この路地を抜けるとまた別の広場に出ることができる。その広場はお祭りのメイン会場の一つで、この花の聖地の街では一番大きい広場なの。
「アグネータお姉様?」
どういうこと?アグネータお姉様が複数の男性と一緒に歩いてる。スモールウッド学園の生徒だわ。それもたぶん高位貴族のご子息達だと思う。これが男女のグループなら特に問題は無いかもしれないけれど女性はお姉様だけ。皆さんお姉様の肩を抱いたり腰や背中に手を回したりしてる。なんだか良くない感じがする。お姉様は勿論、他の皆様にも婚約者がいるはずなのに。
「アンソニーがいるのに、どうして?!」
マーガレット様が声を荒らげてる。私もとても戸惑っていた。
「あ、行ってしまうわっ!追いかけましょう!」
「え?マーガレット様!待って下さい!」
私達は再び走り出したマーガレット様を追いかけた。ええ?マーガレット様、走るの速すぎない?!深層のご令嬢なのに!路地を走り抜けて大きな広場に出たけど、こっちの広場は更に人が多くて前に進みづらいの。それなのにマーガレット様はすいすい進んでいく。あ、侍女さんも速っ!!追いかけるの、慣れてる?
「マーガレット様!アンさん!待ってください!」
アンさんは侍女さんの名前。アンさんは隣国の貴族のご令嬢なんだけど、人柄を買われてオルコット家で働くようになったそう。
私も追いかけようとしたんだけど、人並みに押し出されて転びそうになってしまった。
「大丈夫ですか?スティーリア伯爵令嬢!」
「大丈夫です。ありがとうございます。ヒースコートさん」
グラソン家の家令さん、ヒースコートさんが支えてくれたから何とか倒れずに済んだけど
「痛っ」
足を少し痛めてしまったみたい。
「足首を捻られたようですね。ここは精霊祭のメイン会場ですから救護隊の詰め所があるはずです。参りましょう」
「でも!マーガレット様が……。アンさんも女性だし危ないわ」
「貴女を置いて行くことは出来ません。貴女はラーシュ様の大切な方ですから」
ヒースコートさんは譲ってくれず、私はヒースコートさんに支えられて救護隊のいる所まで歩いた。
「マーガレット様達が向かった方はわかりますよね?」
私は救護隊の詰め所のテントで足首を手当してもらいながら、ヒースコートさんに頼んだの。
「二人を追ってください。お願いします!」
「しかし……」
「私なら、ここでじっとしていますから。ここなら安全でしょう?」
精霊祭では怪我人や急病人、お酒に酔った人などが救護隊の詰め所に運び込まれてくる。けど今はまだテントの下には誰もいなかった。女性の救護隊員さんが何人かいて、談笑してるだけ。
「お願いです!二人が心配なんです」
「…………絶対にここを動かないでくださいね」
私にそう言い含めてヒースコートさんは広場の方へ走り去っていった。
「はあ、私って役立たずだわ。マーガレット様達に何かあったらどうしよう」
それにアグネータお姉様の事も気になる。
「お姉様はどうしてあんな……」
まるで取り巻きを侍らせるみたいに……。クレソニア様がご覧になったらきっと悲しまれるし、嫌な気持ちになると思う。
「あれ?スティーリアさん?」
「え?」
名前を呼ばれてそちらを見ると、クラスメイトの男の子がこちらに向かって手を振っていた。エバンズ様だわ。時々話しかけてくれる人だ。確かエバンズ伯爵家のご令息。
「やあ!偶然だね?君もお祭りを見に来たの?」
「私は……」
「あれ?もしかして怪我したの?大丈夫っ?」
エバンズ様は私の足元に膝をついた。
「あ、あの!エバンズ様、お召し物が汚れてしまいますっ」
私は思わず足を引いた。ズキリと痛みが走るけど、あまり近づかれたくなかったから仕方ないわ。ドレスで隠れてるとはいえ足なんてじっと見られたくない。
「ああ、ごめん。つい……」
エバンズ様は頭をかきながら、人懐っこそうな茶色の瞳を細めて苦笑いした。
「ねえ、スティーリアさん、開会式凄かったね!あんなに精霊達が集まって来るなんて、感動したよ!」
「聞いて下さったのですか?ありがとうございます」
「演奏会も行ったんだ。スティーリアさんが出演するって聞いて。そっちも凄く良かったよ!」
「あ、ありがとうございます」
エバンズ様ってこんなに音楽好きだったのね。
「精霊達が集まって来たのって、今回もスティーリアさんのおかげじゃなかな?」
「そ、そんなことはありません!私達選抜チームはみんなで夏の間中ずっと厳しい練習を積んできていますから」
「いやいやいや!僕はずっとスティーリアさんは凄い人だって知ってたよ!歌、初等部の頃から上手だなぁって思ってたからさ!今日のソロなんて……!」
話しながらどんどん前のめりになってくるエバンズ様に、戸惑いながらじりじり身を引いていたけどそろそろ限界だわ。エバンズ様に悪気はなさそうだけれど、これ以上は困る。はっきり言うべきかしら。それとも立ち上がってテントから出ていくべき?ああ、でも動かないって約束だったわ。どうしよう……。
「僕も今から聖地の音楽隊、目指してみようかなぁ。スティーリアさんと一緒に!」
「今から練習してもリファーナに追いつくのは無理だよ」
「ラーシュ様!どうしてここへ?」
「リファーナ?こんな所でなにしてるの?僕を待っててって言ったのに」
ひいっ!ラーシュ様、笑顔だけど目が笑ってない……。怖い。
「あと、君、エバンズ君だっけ?僕の婚約者に近づかないでくれるかな?彼女が困ってるのがわからない?」
「す、すみませんっ」
エバンズ様が慌てたように私の前から数歩下がった。エバンズ様から離れるチャンス!
「ラーシュ様……っ」
立ち上がってラーシュ様に駆け寄ろうとした私は足の痛みでよろけてしまった。そうだった、挫いてたんだっけ。
「おっと。気を付けて、リファーナ」
私はラーシュ様の胸に倒れこんでしまい、ラーシュ様が支えてくれた。
「ご、ごめんなさい、ラーシュ様」
慌てて離れようとしたんだけど、そのままラーシュ様の腕が背中に回って抱きしめられてしまった。う、動けない。ラーシュ様は力が強いのね。
って、ちょっと待って!み、密着……っ。これは駄目です。ダメなんです。こんな人前で、公衆の面前で!救護隊の女の人が微笑ましそうに見てるっ。でもバランスを崩したのは私だわ。怪我したのも私。私が悪いんだけど。それでも恥ずかしい……っ!!
「ラ、ラーシュ様……、恥ずかしいです……」
「もう、あいつはいないよ」
「え?」
いつの間にかエバンズ様はいなくなってた。なんだか今日は皆さん動きが速いのね。
「足、痛む?」
「大丈夫です。薬を塗っていただきましたから。あ、ラーシュ様!マーガレット様が!アンさんも!」
「ヒースコートから聞いたよ。大丈夫。今頃は捕獲されてると思うから」
「捕獲……?」
他国のとはいえ、公爵令嬢に使う言葉では無いのでは?
「さて。一人で動かなかったのは褒めてあげるけど……」
ラーシュ様は私を抱き上げた。
「怪我をしたのは許せないな」
「ラ、ラーシュ様っ?!私歩けますから!」
捻った足首は少し痛むけれど歩けないほどじゃない。ゆっくりなら行けると思う。
「駄目。ああ、リファーナは甘い香りがする。お菓子の香りかな?」
顔を寄せないで!みんな見てるから!本当に恥ずかしいから!甘い香りってなんで?今日はまだおやつを食べてないのにっ!あ、おやつ食べてないわ。今日のおやつは何かしら…………って違うっ!
「あのっ、ラーシュ様私、ほんとに歩けますから……」
何度頼んでもラーシュ様は私を下ろしてくれず、結局グラソン家の別邸までそのまま運ばれてしまった。
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