開会と脱走
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夏休みが終わって学園が始まっても、ロッティー様には避けられてしまったまま。話しかけても挨拶は返してくれるものの会話はしてくれなかった。
何度も何度も話しかけて、とうとう勇気が足りなくなってしまった。心が折れてしまった。
「もういいよ、リファーナ。謝罪すらないんだから、放っておけばいい」
ラーシュ様には何も言ってなかったんだけどある日そう言われてしまった。ラーシュ様ってどうして私の事わかっちゃうんだろう。
「リファーナには目標があるでしょ?」
私の目標。それは聖地の音楽隊に入ること。その為には経験と実績を積まなければならない。今は秋の精霊祭に向けて、選抜チームの練習を頑張らなきゃいけないの。将来何があっても自由でいられるように。そしてラーシュ様にも話していない私だけの目標は、この冬の聖地の音楽隊の入隊試験に合格すること。
「……頭を切り替えます」
「うん。それでいいと思う」
ロッティー様にはロッティー様なりの事情や考え方があるのかもしれない。けど、私にも頑張る理由がある。もう振り向いてくれないロッティー様に固執してる暇は無い。私はこれまで以上に歌の練習に取り組んだ。
そうして迎えた秋の精霊祭の開会式。
例年通り花の聖地の街にはお祭りの活気が溢れてる。でもいつもと違って開会式が行われるお役所に隣接する講堂には見たことが無いくらいの数の人達が詰めかけていたの。
「これはどういう事でしょうか?」
「どうしたの?何かおかしいの?」
私達の控室からは外の様子が窺えるんだけど、講堂の外には沢山の人、人、人だった。マーガレット様は今年が初めての舞台だから良く分からないみたい。
「いつもはこんなに人が集まらないんだよ、マーガレット。大体は関係者や演奏者、つまり僕達の身内が席を埋めるだけ。なんなら後ろの方の席は空席なこともある」
クレソニア様が苦笑しながらマーガレット様に説明してる。
そう。私達はあくまでもスモールウッド学園の中の選抜チーム。聖地の音楽隊の演奏では無いから、お祭りに来た人たちは屋台だとか、塔の方で行われる聖地の音楽隊の演奏を楽しみにしてるの。あくまでセレモニーに花を添える役目なだけで、そこまでの期待はされてないはず……なんだけど……?
あ、だからって私達は先生をはじめみんな手を抜いたりはしない。厳しい練習をして曲を仕上げてる。だってこの演奏は精霊様に捧げるものだから。
「そんなの当然だ。リファーナが出演するんだから」
「へ?」
なんか、変な声が出ちゃった。ラーシュ様ってば何を言ってるのかしら。
「リファーナの歌と僕の演奏、評判になってるって言ったでしょ。あれから僕達は選抜チームの練習が入ったりで、聖地の音楽隊の演奏会には出られていないけど、結構な数の問い合わせの手紙が来てるらしい」
「問い合わせ、ですか?」
「そう。リファーナや僕は次はいつ演奏会に出演するのかって。特にリファーナ」
「え?」
えええええええ?!なんですか、それ!?
「リファーナにも聖地の音楽隊からの出演依頼が来てるよね。あれはその問い合わせのせいだよ。リファーナの歌が聞きたいんだって」
「でも私は正規の隊員じゃないのに」
「人も精霊も良いものはわかるんだよ」
ラーシュ様だけならともかく、私までそんな風に思ってもらえるんだ。緊張するけど、嬉しい。認めてもらえるって物凄く力になるんだわ。
「さすが私のリファーナ様!」
マーガレット様に抱き締められた。あ、とってもいい香り……。
「誰が貴女のなんですか?僕の婚約者ですよ」
ラーシュ様が私の手を引いた。
「ああ、グラソン様、ズルイですわ!」
「ほらほらマーガレットもグラソン君も、もうすぐ本番だからそろそろ緊張感を持ってくれよ。ああ、リファーナ嬢は肩の力、抜いてね」
クレソニア様は今年スモールウッド学園高等部の三年生。最後の演奏会で選抜チームのリーダーのようなことをしてるの。身分も公爵令息様だからか、自然と皆さんからも頼りにされてるの。クレソニア様も自負がおありなようで皆さんの様子に気を配ってらっしゃるんだけど、気になってることがある。あんまりアグネータお姉様のそばにいないみたい。何かあったのかしら……。リーダーだからみんなの所へ話にいったりと忙しそうにしてるのはわかってるんだけど、やっぱりどこか不自然な気がするわ。心配だけど私がクレソニア様にお姉様と上手くいってますか?なんて聞けない。
「大丈夫ですよ、クレソニア様。僕達はいつも通り、きっちり演奏をしますから」
ラーシュ様の言葉に、私は髪や制服の乱れを直した。鏡を見てチェック。うん、大丈夫。楽譜はしっかり頭に入ってるし、これ以上はできないくらいに練習してきたわ。
「うふふ、頑張りましょうね、リファーナ様」
「はい!」
舞台の幕はもうすぐ上がる。
いつもなら、軽快なリズムの明るい感じの曲を演奏することが多いんだけど、今年はとても静かな曲に挑戦することになった。闇の精霊を讃える曲。私達の挑戦は成功し、今までにないくらいの拍手と歓声を貰えた。そして、とても驚くことが起こったの。精霊様がここまで聞きに来てくれたの。それもかなりたくさんの精霊様達が!私達はもう大興奮だったわ。
「はあ……やっと落ち着きましたわね」
「お疲れさまでした、マーガレット様。マーガレット様のヴィオリア、とても素敵でした!」
「まあ、まあ!リファーナ様の独唱も素晴らしかったですわ!今度二人で合奏したいですわね」
「嬉しいです!是非!」
「うふふ」
私達は開会式を終えて、グラソン侯爵家の別邸に移動していた。今は学園の制服から着替えてホッと一息ついたところなの。
クレソニア様は選抜チームのリーダーとしてお役所の偉い人達や国の偉い人達との歓談の会に呼ばれる事になってたから、私がマーガレット様と一緒にいて欲しいって頼まれたの。マーガレット様にも一緒にお祭りに行きましょうって誘ってもらえてたこともあって、私はいつも通りグラソン侯爵家の別邸にお世話になる予定だったから、マーガレット様も御一緒にってことになったの。
本当はラーシュ様とマーガレット様と私とで遅めの昼食をとった後、お祭りを見に行く予定だった。だけどラーシュ様も何か急な用ができて出かけてしまったの。
「少し待ってて、すぐに戻るから」
ラーシュ様は慌てたように部屋を出て行ってしまった。
「退屈ですわ。外には楽しそうなものがいっぱいですのに!」
「もうすぐラーシュ様がお帰りになると思いますから」
この会話、実は三回目。私は何とかマーガレット様の気を引こうと興味のありそうな話題を出したり、勝手知ったるグラソン侯爵家の図書室へ案内したりと頑張ったんだけど、そろそろ限界かも。私って絶望的に面白い話ってできないのよね。ラーシュ様、早く帰って来て……。
「大変です!リファーナ様!」
マーガレット様のお付きの人が慌てたように私に走り寄って来た。この人は隣国からついて来た侍女さんなんだけど、涙目になってる。部屋の中を見ると窓が開け放たれていて、マーガレット様の姿が無い。私が少し席を外してる間にマーガレット様が外に出て行ってしまった?
「嘘でしょう?ここ、二階……」
窓の下にはもう誰もいなかった。私はグラソン侯爵家の人に急いで訳を説明して、侍女さん、グラソン侯爵家の家令の人と一緒にマーガレット様を探しに出た。
「そういえば一人で散歩に行ってしまうって、クレソニア様が仰ってた。でも今のこの街は一人で出歩くのは危ないわ」
花の聖地の街には今お祭りでたくさんの外部の人達が来ている。怖い人達もいるから、一人で出歩いてはいけないって毎年ラーシュ様から口を酸っぱくして言われてる。
「あんな綺麗な方が一人でいたら……」
恐ろしい想像をしてしまってゾッとした。
「どうしよう、早く見つけなきゃ……」
三人で人混みを縫うように走り、マーガレット様を探し回った。
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