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精霊の歌姫  作者: ゆきあさ


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励まし

来ていただいてありがとうございます!



節度って何だろう?


一緒に馬車に乗るのは良いと思う。その時隣に座るのは大丈夫よね。


ずっと肩を抱かれて、手を握られてるのはどうなんだろう?時々髪の毛をすくわれるのは……?


後で本で調べてみよう。




今日から後半の練習がスモールウッド学園の中等部で始まる。ロッティー様に会うのは気が重かったけど、なんとか話をして仲直りは無理でも私が悪かったところを教えてもらいたかった。勇気をふしりぼって音楽室へ入ったの。でもロッティー様の姿は無かった。


練習が始まる前に先生からお話があった。

「メンバーの変更があります。何人か選抜チームを辞退した方がいらっしゃいます」

先生のお話の中に出てきた名前はあの時あの場にいた方々の名前だった。ロッティー様の名前もあった。

「代わりのメンバーは明日から加わることになります。パート練習も済んでしまいましたが新しく入った仲間と共に是非精霊祭の舞台を成功させましょう。尚、アルトのソロのパートですが……」

先生のお話が耳を通り抜けていく。精霊祭の選抜チームからロッティー様がいなくなってしまった。私は思わずラーシュ様の方を見た。ラーシュ様は心配そうに私を見ていたけど静かに首を振った。


メンバーが何人かいなくなってしまったけど、滞りなく全体練習が進められて後半の初日は無事に終わったの。





「僕は何もしてないよ」

ラーシュ様はお茶を飲みながら、私が何かを言う前に切り出した。

「確かに僕は怒っていたし、今もそうだ。許せないと思ってるけどね」

「いえ、ラーシュ様が何か、という事ではなく、何かご存じかと思ったんです」

私は慌てて否定した。ラーシュ様はあの時「侮辱だ」って言っていたし、リータ子爵家から何か連絡があったのではと思ったの。


初日の練習後、ラーシュ様と私はマーガレット様に誘われて、中等部近くのカフェに来たの。前にラーシュ様と来たことがあるカフェに、クレソニア様もご一緒に。


「彼女達はご自分達で考えて、選抜メンバーを辞退なさったのでしょうね」

マーガレット様が当然よね、というように頷いてる。

「貴族だという自覚があるのなら自分よりも身分の高い者に悪口を言えないよね。そんな事をしたらどうなるかは余程の馬鹿でもない限り理解できる。まあ、誰に対してでも陰口を叩くような人間は僕は好かないけれど」

クレソニア様はいつもと変わらずにこやかだけど今日は何となく怒ってるように見える。やっぱりマーガレット様はあの時近くにいらしたのね。そしてクレソニア様にもお話しなさったんだわ。


「でも私、ロッティー様ときちんとお話したかったです」

今からでもロッティー様のおうちへ行こうかしら。ああ、ダメだ。突然訪ねていくのはとても失礼なことだわ。十日間のお休みの間、何をグズグズしてたの。……でも怖くてつい逃げてしまってた。

「リファーナは彼女と仲直りしたいの?それは少し難しいと思うよ。だってリファーナには非がないからね。まずは向こうの謝罪からだよ」

「そんな……」

「リファーナはただ一生懸命練習して実力をつけただけ。その結果があの演奏会での評価だ。他の隊員からも出演依頼が来てるでしょ?そういうことだよ。ロッティー・リータ子爵令嬢は嘘をついてリファーナを貶めた。リファーナが彼女が言うような人間じゃないことはこの僕が一番良く知ってる。到底許せることじゃない」

ラーシュ様は今までになく厳しい顔をしてる。それでも私の言動に誤解させる何かがあったのかもしれない。ロッティー様と話をしたかった。学園が始まってからでも大丈夫かしら。


「そうですわね。リータ子爵令嬢に追従したとはいえ、他のご令嬢様達も酷いことを仰ってたように記憶してますわ」

マーガレット様が小さく切ったケーキを口に運んだ。いつの間に食べてしまったのか、マーガレット様の前には空のお皿が二枚ある。え?早くない?!


「僕も放課後に音楽室を使うことがあるけれど、音楽室のドアは一部ガラス張りになってるよね?君達がとても真剣に練習をしてたのをよく見かけたよ。自分の音楽に真摯な者達程、二人が一生懸命だったことは良く知ってるから大丈夫だよ。勿論、学園の先生達もね」

クレソニア様も練習をなさってたんだ……。みんな努力してるんだわ。そしてラーシュ様と私が頑張ってた事を見ていてくれてたんだ。

「だから、あんなそしりを受ける謂われは無いと思う」

「私もそう思いますわ。だから気にせずに元気を出して、リファーナ様!前にも申し上げましたけど、私は貴女の味方よ!」

「ありがとうございます……。クレソニア様、マーガレット様」


「僕だってリファーナの味方だよ。一番のね」

ラーシュ様はそう言ってテーブルの下、私の手を強く握ってくれた。

「はい。ありがとうございます……。ラーシュ様」

私はラーシュ様の手を握り返した。あったかくて優しい手。





「そういえば姉も今日は練習にいなかったですね」

クレソニア様とも一緒じゃないなんて珍しい気がする……。

「ああ、そういえば前半のパート練習も休みがちだったよ」

ラーシュ様が少し言いづらそうに私に告げた。ラーシュ様とアグネータお姉様は共にクラヴィーアという大きな弦楽器の担当で、前半のパート練習も一緒だったの。

「え?そうなのですか?」

お姉様は練習しなくてもクラヴィーアを弾きこなせるから大丈夫なのかしら。でも合奏となると皆さんと息を合わせる必要があるから練習には出た方がいいと思うんだけれど。


「君からアグネータに練習に出てくるように言えないかな?」

クレソニア様から頼まれたけれど、それは私には難しいことだわ。

「申し訳ありません。私は今グラソン様のお屋敷にお世話になってて、姉とは会う機会が無くて」

そもそもアグネータお姉様は私の言う事なんて聞いてくれないけど。

「クレソニア様の方が姉と会う機会が多いと思います」

「そう、そうだね。わかった。僕から言っておくようにするよ」

違和感があった。クレソニア様とアグネータお姉様はいつも一緒に選抜チームの練習にも来ていたと思う。今は違うのかしら?もしかして喧嘩をしてるとか?クレソニア様とお姉様の心が離れてしまったのかしら。もしもそうなら……。不安で胸が痛い。


「ふふ、もうすでにリファーナ様はグラソン様のお屋敷でお二人で住んでらっしゃるのね」

考え事をしてた私は、マーガレット様のとても楽しそうな声音に気が付かなかった。

「え?えっと、はい。そうですね」

そして深く考えずに返事をしてしまったのだった。

「ふふふふ。ラブラブですわね!」

「え?ええ?!いえ、私は本当は寮で夏休みを過ごそうと思ってたんですけど……」

家には帰りたくなかったなんて言えないわよね。

「寮では色々と不便だからうちへ来てもらってるんですよ。彼女の家では練習もままならないので。……そうですね。仲が良いのは本当ですよ。でも彼女は少し身持ちが堅い女性ですから、節度は守っています」


ラーシュ様、テーブルの下で手を握るのは節度的にどうなんですか?ああ、でもさっきは嬉しくて私も手を握り返してしまったんだったわ。私も節度が無いわ。…………ゆ、指を絡めないで欲しいんですけど……。手を離そうと思ってもあまり派手に動くと手を繋いでいたことを知られてしまいそうで、恥ずかしくて動けない。ラーシュ様の指先が私の手のひらや甲をそっと撫でるように動いている。くすぐったいような、ぞわぞわするような、なんだか変な感じ。それに恥ずかしい……。もう限界……!


「もう、限界ですわ!」

「マーガレット、流石に食べすぎだよ……。ケーキ五つなんて」

ふうっと満足そうにため息をつくマーガレット様とそれを呆れたように見ているクレソニア様。マーガレット様、いつの間にそんなに召し上がられたの?!

「仕方ありませんわ!練習の後はお腹が空くんですのよ?」

「それはわかるけれどね」

「大丈夫ですわ。私、たくさん食べても太らない体質なんです!」

それはちょっと羨ましい。


クレソニア様とマーガレット様が言い合ってる間に私はそっと手を離すことができたの。両手を胸の前で握りしめて、ラーシュ様を睨んでしまったわ。

「どうしたの?せっかくのケーキ、食べないの?」

ラーシュ様が笑ってる。すっごく楽しそうに!またからかわれたんだわ。ちょっと悔しい。

「いただきますとも!」

私は手を付けられないでいたケーキを食べ始めた。やっぱりここのショコラムースは美味しいわ。

「リファーナはそれだけにしておいてね。夕食が入らなくなるから」

「私、そんな小さな子どもみたいじゃありません!」

「あれ?この前王都で買ったお菓子を食べすぎて、夕食が食べられなかったのはどこの誰かな?」

「あ、あれは!ラーシュ様が追加でトレーにたくさんお菓子を足したからじゃないですか!」


「ぷっ」

「ふふふ」


クレソニア様とマーガレット様の笑い声に我に返った。

「やっぱり、二人は仲が良いね」

「微笑ましいですわ!」


「ええ、仲良しですよ。もうずっと一緒にいますからね」

否定の言葉は出なかった。今だけ、もう少しだけここに、ラーシュ様の隣にいたいと心の底から願ってしまったから。私、少しだけ夢を見てもいいかしら。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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