ユート、乱入す!
明日から5日間、出張に出ます。よって、投稿できず。しばらくお休みです。
「さて、そろそろ行きますか?」
牢屋でユートがそうクラウディアに声をかける。
娘に化けたグールたちが連れ去られて15分ほど経った。今から行けば、面白い現場を見ることができるだろう。
「そうですわ。なかなか面白いことになりそうですわ」
くすくすと笑い始めるクラウディア。邪なことを考えている連中に、ものすごいトラウマを与える出来事が始まる。
(まあ、トラウマになってもすぐに死ぬから意味がないですけど)
ユートは牢の扉を開ける。そして階段を上っていく。分厚い扉も『解錠』の魔法で何なんなく開けた。
「おい、なんで牢から!」
そこまで叫んだ牢番の男を軽く右手で払っただけで、軽く排除した。クラウディアの放った『眠りの魔法』である。男は床に崩れ落ちて、そのまま眠りに落ちた。眠りの魔法は第2位階。クラウディアなら詠唱破棄で実行できる。
「ユート様、これを使うとよいですわ」
クラウディアがたすきがけした赤いポシェットから、樫の棒を取り出した。ユートの標準装備である。小さいポシェットから、なぜ長い樫の棒が出てきたのか、ユートは不思議に思うことすらしない。
「そうだね。これで十分。でも、腕輪はⅢにしておこう。これなら少し強くなれるからね」
Ⅲは超人モードだ。正確に言うとユート自身の強さは超人どころではない。腕輪の能力で力を抑え込んでいるのだが、ユートは腕輪の力によって力を得ていると思っている。
ユートとクラウディアが地下牢から出た頃、ホールでは前夜祭と称する宴会が開かれていた。
サウザント公国を裏で支配する暴力集団オーガヘッドの各都市に配置した支部長及び本部の幹部が勢ぞろいしている。
毎年、各支部が持ち回りで行っている年次総会だ。
ここでは各支部の1年間の稼ぎと本部への上納金を披露し、支部の格付けを行う。
ここで好成績を収めた支部長は本部の幹部への抜擢がなされる。
本部の幹部どころか、将来はオーガヘッドの率いる総長を目指しているバーモントにとっては、重要な総会であった。
(この総会を成功させ、オーガヘッド内の自分の存在を大きく知らしめる。今年の成果やこの総会の手際の良さが評価されるだろう……)
バーモントは自信があった。
既に各支部の支部長及び総長が揃い、バーモントの歓待にみんな満足をしている。
滑り出しは上々である。
(まずはこの夜の前夜祭。うまい酒を飲ませ、女を抱かせて骨抜きにする)
勝負は明日の総会だ。
ここでバーモントは本部の幹部への昇進を要請され、それを受ける手はずになっている。根回しは十分である。
「それではモルト総長をお迎えして、記念すべき今年のオーガヘッドの総会前夜祭を始める。僭越ながら、この第4支部長バーモントが祝杯のリードをさせていただく」
ぎろりとバーモントは会場をにらみつける。
ライバルの支部長たちは目をそらす。
もはや、支部長連中でバーモントに対抗できる者はいない。
バーモントは総長のモルトに視線を移す。白髭を蓄えた老人である。小柄であるが暗殺術の達人で。総長になるまでに多くのライバルを闇に葬ってきたとされる。
(くくく……爺め。来年のお前の席はそこじゃない。俺がいただく)
そう瞳の奥底に野心を漲らせ、バーモントは杯を高く上げた。
「乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
次々と声が続く。それぞれがグラスに口をつけたタイミングで、バーモントはパンパンと手を叩いた。
ドレスに着替えさせた娘たちが会場に入ってくる。
全員、町から拉致してきた娘たちだ。
この日のためにバーモントが厳選し、選んできただけあって会場の支部長やその手下たちは歓声を上げた。
「バーモント、よくこれだけ美しい娘っ子を集めたのう」
モルト総長は酒を飲みつつ、バーモントに近寄ってそう褒めた。
傍には花屋のリリアンが腕を組んでしなだれている。
自分の隣にいるのは領主の娘アルティ。これも右腕にべったりと寄り掛かっている。
(何かおかしい……。牢に入れて開き直ったかと思ったが……)
ここにいる娘たちは無理やり連れて来た。
ここにいるのは不本意であるはずである。
それなのに自ら積極的に男たちに身を預けている。
(特にこのアルティは気の強い女。もっと抵抗すると思ったが……)
何だか嫌な気がしたバーモントは、アルティを引きはがし、モルト総長の左腕に移動させた。
モルト総長は両手に花状態でウハウハな気分で上機嫌だ。
「おい、バーモントよ。今宵はこの2人。わしに相手をさせてくれんかのう。2人とも初奴じゃ、気に入った」
「お好きなように……」
本当はリリアンとアルティは自分がもらうつもりであったが、今はそんな気になれなかった。
「うああああっ……」
「こいつ、なんで倒れない!」
酒と女で盛り上がるホールの外で異変が起きた。会場の支部長や幹部たちは談笑に忙しいので気が付いたものは少ないが、ただならぬ声が響いてくる。
「どうしたんだ?」
バーモントは総長の元からそっと離れ、ホールから出た。そこにいた自分の手下に聞く。その手下は廊下からホールへと逃げて来たようだ。
「大変です、支部長……あのガキが」
そこまで言って手下は腰が抜けたように床にうずくまった。バーモントは不愉快になり、その手下を蹴り上げる。
「ガキって、あの花屋の一件のガキか!」
バーモントは花屋での出来事を思い出した。あの少年は普通ではなかった。
麻酔針で気絶させたとはいえ、かなりの腕前であったことは間違いがない。
「所詮は道場武術をかじった程度だろう。実際に人を殺めたことのない品行方正な強さだ。恐れるにたらん」
バーモントは廊下に出てやってくるユートに向かっていった。そして見たのは、後ろの廊下にバタバタと倒れている手下の体を踏み越えてくる2人の子供の姿だ。
「このくそガキ……一体、何をした!?」
バーモントは腰の剣を抜いた。
恐らく、この2人のどちらかが魔法が使えると思ったのだ。
それはこれまで修羅場を幾度なく経験してきたバーモントの勘である。
しかし、その経験も所詮は人間の常識の範囲を越えてはいなかった。
バーモントに付き従っていた2人の手下がユートに向かって行ったが、手にした木の棒を2回振っただけで吹き飛ばした。
2人とも空中に浮かび、縦ロールで10回転して地面に叩きつけられたのだ。一体、どうしてこうなるのか想像もつかない。
「貴様、絶対に殺す!」
バーモントは剣を構えた。ここで騒ぎを大きくするわけにはいかない。
会場にはオーガヘッドの幹部や総長がいる。この状況を見られたら、能力を疑われてしまう。
オーガヘッドの本部の幹部へ抜擢される目論見が潰えてしまうだろう。
(ここで始末する……)
「うおおおおおおっ!」
バーモントは気合を入れて、斬りかかる。大抵の敵はこの気合で体がすくむ。その瞬間を真っ二つにする。相当の使い手以外はかわすことはできない。
ガキッ!
鈍い音でバーモントの渾身の一撃はユートに止められた。バーモントの剣はブロードソード。業物の名品である。受け止めたユートの武器は樫の木の棒。
バーモントは驚いた。ありえない光景である。
「ば、ばかな……そんな武器で受け止められるわけがないだろう!」
バーモントはユートの背後にいる少女を見た。赤いポシェットをたすき掛けした変哲もない少女だ。
しかし、目の前で繰り広げられている光景にたじろんでいる様子もない。
それどころか不気味な笑みを浮かべている。
(な、なんだ、このプレッシャーは……人ではないものに見られている感覚……)
バーモントの背筋に冷たいものが走る。
しかし、そんな感触を激しく首を振って払しょくした。
現実は受け入れる。何か仕掛けがあるだけだ。
そんなことに動揺することもない。
要は力対力である。目の前の少年と自分ではどう考えても負けるはずがない。
(木の棒で剣を受け止められるわけがない……魔法で強化されていると考えるのが正解)
そう気を取り直して剣を引き、さらに斬りかかるがそれも受け止められる。
「ば、馬鹿な!」
バーモントは両手で力いっぱい振り下ろしたのに、ユートは片手で軽く受け止めているのだ。
傍から見ると滑稽な感じである。




