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勇者の○○○○○

 その隙を逃さないユート。老吸血鬼の背後に回って、両肩を抑え込んだ。目にもとまらぬ速さとはこのことだ。

 ルーシーも吸血鬼もあまりの展開にボー然として動けない。


「今です、ルーシーさん、聖水をかけてください!」

「え、ええええっ!」


 読めない。ユートの行動が読めない。

 読めないが聖水を使うことは理解できる。

 確かに吸血鬼に聖水を振りかければ、ダメージを与えられるかもしれない。

 先ほどもワイトも一撃で動かなくなった。


(よし、聖水パワーでこの吸血鬼も……案外、これで勝負がついたりして)


 ルーシーは聖水の瓶を逆さにして、全て老吸血鬼のくすんだ黒髪交じりの白髪に振りかけた。


「どうだ、これで吸血鬼は退散~っと……」


 頭の毛がびっしょりと濡れた老婆が恨めしそうにルーシーを見る。


「え……効かないの?」

「聖水など、私に効くものですか!」


 そう抜けた歯が目立つ口で老吸血鬼は怒鳴った。


「私は大魔王の呪いで若さを失い、そして吸血鬼にされのですわ。しかし、私自身は神の信仰を失っていない。吸血鬼ではあるが、これまで人の血は吸ったことがないの。それはすなわち、神の敵ではないということですわ」

(なるほど……。人の血を吸ってないから、真の吸血鬼化はしていないということ。聖水は効果がない……)


 老婆は右手でルーシーを軽く払った。風圧でルーシーの体が後方へ5mも転がる。


「うああああっ……」


 なんとか受け身を取ったのでけがはしなかったが、右手を軽く動かしただけで、この威力だ。


「さあ、小僧。よくもこの私の体に触れたわね。その報いを受けてもらうのですわ。このクラウディア……」


 話の途中で老吸血鬼は頭から水をかけられた。

 ユートが腰に付けていた竹筒の水を頭からかけたのだ。


「ぐあああああああっ~」


 老吸血鬼の体がたちまち煙に包まれる。ものすごい効果だ。

 先ほどの狼人間もこの水で撃退した。


「うあああっ……」


 床に転げまわり、苦しんでいる吸血鬼。


「ユート、やっぱり、その竹筒の中の水は何だ。さっきの教会でもらった聖水はさっぱり聞かなかったけど、それは別物。強力な坊さんに拝んでもらったスーパー聖水か、それとも伝説の泉で汲んで来た魔を打ち払う聖なる水?」


 ルーシーはそう聞いた。

 狼人間の時は答えをはぐらかされたが、絶対にこの水は特別なものに違いないだろう。


「ああ……ええっと……。これは内緒ですよ。これはアリナ様が出した聖水です。正確に言うと、アリナ様のお体をお拭きしたタオルを浸した水も入っています」

「は、はあああああああ?」


 ルーシーは混乱した。一体、この少年は何を言っているのだ。


「だから、アリナ様の聖水です。ルーシーさんだって毎日出すでしょ。ルーシーさんの場合はおしっこですが」


 すました顔でとんでもないことを告白するユート。


「いや、ユート、もう一度、確認するが、その竹筒の中は勇者のおしっこ、加えて汗!?」

「ルーシーさん、失礼なことを言ってはなりません。高貴なる勇者のアリナ様はおしっこやうんこはしません。アリナ様は神様から選ばれた女神様のような人なのです。僕たちみたいに汚いおしっこやうんこはなさいませんよ。出されるのは聖水です。そして汗はアリナ様の匂いがついた高貴な液体です」


 ユートは勇者アリナの執事。アリナが寝込めば、当然、つきっきりの看病をする。アリナは体力が限界まで失われていたので、ベッドから起き上がれないほど。だから、トイレにも行けない。

 よって、トイレの代わりに尿瓶で用を足すしかない。その介添えは執事であるユートの役目。そして毎日、朝と夜に体を拭く。


「だ、だからって、勇者のしょんべんと汗を集めて持って来るな、この変態少年!」

「ですから、しょんべんじゃありません。罰があたりますよ。これは聖水です」

「いや、聖水って、お前、どんなけ倒錯趣味だよ!」

「ち、ちょっと……待て!」


 ルーシーとユートの掛け合いに介入したものがいる。頭からユートが言う聖水をかけられた、老吸血鬼クラウディアだ。


「あ、あなたたち……話は分かったですわ。よくも、よくも、汚らしい小便を頭からかけたな~。許しません、八つ裂きにしてあげるのですわ……」


 恐ろしい言葉を吐いてユートとルーシーをにらみつけるクラウディア。しかし、ルーシーは目をまん丸くしてクラウディアを指さす。


「お、お前……なんでそうなった!」


 ルーシーは思わず間抜けな声を上げてしまった。

 なぜなら、100歳を超える老婆の容姿だったクラウディアが、12,3歳ほどの少女の姿に変わっていたのだ。

 艶を失っていた白髪交じりの髪は、艶やかな黒髪。淀んだ瞳は若々しく輝く。しわくちゃのお肌はプリプリのもちもち。


「え、え、え!」

 

 ルーシーの反応にクラウディアは思わず両手で顔を触る。感触を確認し、手や足を見る。どこもかしこも若返っている。

 広間にある大きな姿見に己の姿を映す。吸血鬼は鏡に姿が映らないというのは間違いだったようだ。そこには10代の美少女が映っていた。


「の、呪いが……解けた~っ」


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