35/42
35、目覚め
「あ……」
視界には、見慣れた自室の天井がある。
「葵さん!」
必死な声がして視線を横に向けると、丙が葵の手を握り、顔を覗き込んでいた。
「丙様」
葵の呟きにうなずき、丙は葵を抱きしめた。
「君が目を覚まさなかったら、どうしようかと……」
声を震わせる彼を見て、葵の胸がじわりと熱を持つ。
——この人は私を心配してくれて、私を見てくれて、私を抱きしめてくれるんだ。
私は今、この人の腕の中に居場所があるんだな。
この居場所を、温もりを、失うことを考えるだけで恐ろしくなる。
きっと、これが恋なのだろう。
それは、楽しくて幸せで、甘くて——少しだけ、怖い気がした。
葵は震える彼の背に、そっと腕を回した。
そのとき、葵の視界の隅にゆらりと揺れる白い人影が見えた。
人影は美しい女性の姿をしていて、目が合うと一瞬だけ微笑む。
そして、空気に溶けるように儚く消えた。
お母様……。
自分を守ってくれていた力は、墨染の王との戦いで尽きてしまったのだろう。




