第9話
弘毅は、目の前の女性を見つめていた。
――どこかで会った。
そんな感覚が胸に引っ掛かる。
しかも、ごく最近。
だが、何処で会ったのか思い出せない。
頭の奥に霧が掛かっているみたいだった。
「大丈夫ですか? 救急車、呼びましょうか?」
女性――奈津は心配そうに弘毅の顔を覗き込んでくる。
優しい声だった。
その声を聞いていると、不思議と胸が落ち着く。
「だ、大丈夫です……」
弘毅は小さく首を振った。
「気にしないでください。ちょっと気分が悪くなっただけなので……」
そう言いながら、ゆっくり顔を上げる。
そして、弘毅は息を呑んだ。
「――っ」
奈津の顔が、ギャラクシアで出会った彩香によく似ていたのだ。
柔らかな目元。
穏やかな雰囲気。
どこか包み込むような優しい表情。
もちろん別人だ。
髪型も違う。
年齢も少し上に見える。
それでも、面影がある。
特に笑った時の雰囲気が、驚くほど似ていた。
弘毅の胸がざわつく。
彩香。
銀色の髪の少女。
タイムトンネルの中で、自分の手を握ってくれた少女。
『……大丈夫。私が付いてるから』
あの声が、頭の奥で微かに蘇る。
「本当に大丈夫ですか?」
奈津はまだ不安そうだった。
「顔色、かなり悪いですよ?」
「え……あ、はい……」
弘毅は慌てて視線を逸らした。
まるで奈津の顔を見続けてはいけない気がした。
その時だった。
「ねぇ、奈津ー! どうしたのー?」
少し離れた場所から、明るい女性の声が響く。
振り向くと、同じくらいの年齢の女性がこちらへ手を振っていた。
長い茶色の髪。
活発そうな雰囲気の女性だった。
「早く行こうよ!」
「あ、ごめん祐子! 今行く!」
奈津は振り返り、少し申し訳なさそうに笑う。
そして再び弘毅へ視線を戻した。
その優しい眼差しに、弘毅は胸の奥が少し痛くなる。
なぜだろう。
初めて会ったはずなのに、懐かしい。
そんな感覚が消えない。
「ぼ、僕なら本当に大丈夫ですから」
弘毅は無理に笑顔を作った。
「心配かけてすみません」
奈津は少し迷うような表情を見せた後、小さく頷いた。
「……無理しないでくださいね?」
その言葉だけを残し、奈津は祐子の元へ駆けていく。
人混みの中へ消えていく後ろ姿を、弘毅はしばらく見つめていた。
その時だった。
不意に胸の奥で、何かが引っ掛かる。
まるで忘れていた記憶が、もう少しで繋がりそうな――。
そんな、不思議な感覚だった。




