表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/75

第8話

「きみ、本当に大丈夫かね? 家まで送ろうか?」


 警察官は心配そうに弘毅を見つめていた。


「……きみの家は?」


 その言葉に、弘毅は息を詰まらせる。


 家。


 その単語を聞いた瞬間、頭の奥に鈍い痛みが走った。


 思い出せない。


 自分が何処から来たのか。


 何処へ帰ればいいのか。


 何もわからない。


 だが、本当のことを言えるはずもなかった。


 未来から来た――などと言えば、完全に頭のおかしい人間だと思われるだろう。


「だ、大丈夫です……!」


 弘毅は慌てて頭を下げる。


「一人で帰れますから」


 そう言うと、逃げるように公園を後にした。


 背後で警察官がまだ何か言っていた気がしたが、弘毅は振り返らなかった。


     ◇


 夜の東京は、眩しかった。


 公園を出た瞬間、無数のネオンが視界へ飛び込んでくる。


 高層ビル。


 大型ビジョン。


 車のヘッドライト。


 人、人、人――。


 未来の静まり返った世界とは違う。


 街全体が、生き物みたいに脈打っていた。


 弘毅は立ち止まり、見上げる。


 巨大なビル群が夜空を覆っている。


「……ここ、何処なんだ」


 小さく呟く。


 だが、当然答える者はいない。


 人の流れに押されるように歩き続けるうち、弘毅はようやく自分が新宿付近にいることに気付いた。


 巨大な電光掲示板。


 駅前の雑踏。


 眠らない街の喧騒。


「新宿……」


 その名前には、微かな覚えがあった。


 だが、それ以上は思い出せない。


『どうして俺は、こんな場所にいるんだ……?』


 頭の中が混乱する。


『俺は、ギャラクシアに乗っていたんじゃ……』


 その瞬間だった。


 ズキン――。


「っ……!」


 激しい頭痛が弘毅を襲う。


 視界が揺れる。


 耳鳴りが響く。


 無数の人混みが歪んで見えた。


 その時。


『……大丈夫』


 不意に、頭の奥で声が響く。


『私が付いているから……』


「……彩香」


 弘毅は無意識にその名前を呟いていた。


 銀色の髪。


 小さな手。


 優しい声。


 思い出そうとする度に、胸が締め付けられる。


 痛みと眩暈に耐え切れず、弘毅はその場にしゃがみ込んだ。


 周囲の人々が、不思議そうに弘毅を見る。


 だが、誰も立ち止まらない。


 都会は、他人に無関心だった。


「だ、大丈夫ですか?」


 その時だった。


 柔らかな女性の声が頭上から降ってくる。


 弘毅がゆっくり顔を上げると、一人の女性が心配そうにこちらを覗き込んでいた。


 二十代前半くらいだろうか。


 丸顔で、どこか親しみやすい雰囲気の女性だった。


 肩まで伸びた髪。


 落ち着いた色のカーディガン。


 派手ではないが、優しそうな笑顔が印象的だった。


「顔色、すごく悪いですよ?」


 女性――奈津は、本当に心配そうに弘毅を見つめていた。


 その優しい眼差しを見た瞬間。


 張り詰めていた何かが、少しだけ緩みそうになる。


 だが同時に、弘毅は強い不安を感じていた。


 この時代で、自分はいったい何者なのか。


 それすら、まだわからないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ