第7話
「うわっ……!」
激しい加速に耐え切れず、弘毅の身体が大きく揺れる。
思わず隣の少女――彩香の手を離しそうになった、その瞬間だった。
ぎゅっ――。
逆に、彩香の細い指が弘毅の手を強く握り返した。
「……大丈夫」
消え入りそうな小さな声。
「私が、付いてるから……」
その声は、時間の轟音にかき消されそうなほど微かだった。
けれど、不思議と弘毅の胸にははっきり届いた。
張り詰めていた恐怖が、少しだけ和らいでいく。
温かかった。
彩香の手は驚くほど小さく、柔らかい。
なのに、なぜか安心できた。
まるで幼い頃、母親に手を握られていた時みたいに。
弘毅は無意識に、その手を握り返していた。
光の渦が視界いっぱいに広がる。
耳鳴り。
浮遊感。
遠ざかっていく意識。
その最後に見えたのは、どこか悲しそうに微笑む彩香の横顔だった。
そして弘毅の意識は、静かな闇へ沈んでいった。
◇
「――きみ、きみ。大丈夫かね?」
遠くから聞こえる声。
弘毅はゆっくりと意識を浮上させた。
「……ん……」
重い瞼を開く。
ぼやけた視界の向こうに、白い街灯の光が滲んでいた。
冷たい風が頬を撫でる。
寒い。
弘毅は無意識に身体を縮こませた。
「きみ、こんな所で寝ていたら風邪を引くよ」
目を擦りながら顔を上げる。
そこに立っていたのは、制服姿の警察官だった。
四十代くらいだろうか。
少し疲れた顔をした男性警官が、心配そうに弘毅を見下ろしている。
「え……?」
弘毅は周囲を見回した。
知らない公園だった。
小さな噴水。
古びた時計台。
ベンチの横に並ぶ自動販売機。
遠くから車の走る音が聞こえる。
都会特有の、ざわついた夜の気配。
どうやら弘毅は、公園のベンチで横になっていたらしい。
コートも着ていない。
冷えた夜風が身体に刺さる。
「だ、大丈夫です……!」
弘毅は慌ててベンチから立ち上がった。
警察官は少し呆れたように苦笑する。
「若いとはいえ、こんな季節に外で寝ちゃ駄目だよ」
「す、すみません……」
頭を下げながらも、弘毅の頭の中は混乱していた。
ここは何処だ。
どうして自分は公園で寝ていた。
ギャラクシアは?
彩香は?
慌てて周囲を見回す。
だが、銀色の少女の姿は何処にもなかった。
その時だった。
公園の時計台から、電子音が鳴り響く。
――午後七時。
時計の下に表示された日付を見た瞬間、弘毅の呼吸が止まった。
【2008年7月21日】
「……本当に、来たのか」
弘毅は呆然と呟いた。
自分は本当に、過去へ来てしまったのだと。




