第6話
『間もなく、タイムトンネルへ突入します』
車内アナウンスが静かに響く。
「タイムトンネル……?」
弘毅は眉をひそめた。
時間移動そのものが現実感のない話なのに、“トンネル”と言われても、いまいち実感が湧かない。
その時だった。
ふわり、と。
甘い柑橘系の香りが車内に漂った。
どこか懐かしい匂い。
レモンにも似た、淡く優しい香りだった。
弘毅が不思議に思った次の瞬間――。
ドンッ!!
「ぐっ……!」
強烈な衝撃が車体を貫いた。
弘毅の身体がシートへ叩き付けられる。
息が詰まる。
胸が潰れそうだった。
ギャラクシアが急激に加速していく。
車窓の外では、幾重もの光が渦を巻き、空間そのものが歪んでいた。
まるで時間の中を無理矢理こじ開けて進んでいるようだった。
『時間加速領域へ移行します』
アナウンスの声が遠く聞こえる。
だが、弘毅にはそれどころではなかった。
「っ……!」
全身が重い。
見えない巨大な力に押し潰されているようだった。
『し、死ぬ……!』
弘毅は必死に座席の肘掛けへ手を伸ばし、強く握り締める。
視界が揺れる。
意識が飛びそうになる。
その中で、弘毅はふと隣へ視線を向けた。
いつの間に座っていたのだろう。
そこには、一人の少女がいた。
歳は十八か十九くらい。
銀色のショートカットが、車内灯の明かりを受けて淡く輝いている。
小柄な身体。
どこか幼さを残した顔立ち。
だが、その瞳だけは不思議なくらい静かだった。
少女もまた、加速に耐えるようにシートへ身体を預けている。
細い指が肘掛けを強く握り締めていた。
その横顔を見た瞬間。
弘毅の胸が、大きくざわついた。
――知っている。
何処かで会った。
絶対に。
だが、思い出せない。
思い出そうとすると、記憶の奥に霧が掛かる。
「……誰だ」
弘毅は無意識に呟いていた。
すると少女が、ゆっくり弘毅を見る。
透き通るような灰色の瞳。
その目が一瞬だけ、悲しそうに揺れた。
そして少女は、小さく微笑む。
「……やっと、会えた」
「え……?」
弘毅が聞き返そうとした瞬間――。
ギャラクシアが、さらに加速した。
轟音。
閃光。
時間の渦が車窓いっぱいに広がる。
その中で弘毅の意識は再び激しく揺さぶられていった。




