第80話
弘毅が飛び出した病院の廊下は、普通の病院とは明らかに違っていた。
白い壁。
無機質な照明。
長く続く通路。
その光景は、奈津と共に連れて来られた“ギャラクシア”の建物内部と酷似していた。
「ここは……」
弘毅は目の前に広がる異様な光景に戸惑った。
ここは本当に病院なのか?
それとも――。
そんな疑問が頭をよぎった瞬間だった。
後方から足音が響いた。
カツ……カツ……。
弘毅が振り返ると、先ほどまで自分がいた病室の扉が開いていた。
そこから姿を現したのは、ナース服姿の奈津だった。
その手には、まだ鋭いナイフが握られている。
「待ちなさい……」
奈津は冷たい声で呟いた。
その表情には、弘毅が知っている優しい奈津の面影はなかった。
「や、やばい……!」
弘毅は反射的に走り出した。
今は理由を考えている暇はない。
とにかく逃げなければ――。
背後から奈津の足音が追い掛けてくる。
弘毅は迷路のように入り組んだ廊下を、必死になって走り続けた。
『どこへ逃げればいいんだ……?』
だが、どれだけ走っても出口らしき場所は見つからない。
まるで建物そのものが意思を持ち、弘毅を閉じ込めようとしているようだった。
その時――。
突然、弘毅の頭に激しい痛みが走った。
「うっ……!」
弘毅は壁に手をつき、その場に立ち止まる。
頭の奥から、誰かの声が響いてくる。
『こっちよ……』
優しく、そして必死に呼び掛ける女性の声。
弘毅はその声を聞いた瞬間、息を呑んだ。
「……この声……」
どこかで聞いたことがある。
いや――。
これは初めてではない。
「え……?」
弘毅は頭を押さえながら、呟いた。
「俺……この場所を知っている?」
薄れた記憶の奥で、何かが目覚めようとしていた。




