第61話
「だ、誰だ!?」
突然聞こえてきた声に、弘毅は反射的に辺りを見回した。
しかし、薄暗い部屋には誰の姿もない。
その時だった。
「駄目でしょう……坊や」
どこか懐かしく、優しい女性の声が響いた。
「こっちへいらっしゃい」
弘毅の目の前の空間がゆらりと歪む。
そして、その中から一人の女性が静かに姿を現した。
「……加奈子さん!?」
そこに立っていたのは、死んだはずの加奈子だった。
彼女は穏やかな笑みを浮かべ、弘毅へ向かってゆっくりと手を差し伸べる。
「さあ、おいでなさい。
駿一……もう帰りましょう」
その優しい声を聞いた瞬間、弘毅の意識は霞んでいく。
――帰ろう。
その言葉だけが胸の奥に染み込み、身体が勝手に動き始めた。
「……うん」
弘毅は夢遊病者のように頷き、加奈子へ歩み寄る。
差し出された手へ、自分の手を伸ばした。
「駄目!!」
彩香が鋭く叫ぶ。
「それは本物じゃない! 幻覚よ!」
だが、弘毅の耳には届かない。
あと数センチで手が触れようとした、その瞬間――。
「弘毅!!」
彩香は迷うことなく飛び出した。
弘毅の身体へ体当たりし、そのまま加奈子の前から突き飛ばす。
代わりに彩香の右手が、加奈子の手へ触れた。
バチィィッ!!
激しい放電音が部屋中に響き渡る。
「きゃあぁぁっ!!」
彩香の身体を青白い電流が駆け巡り、その細い身体が大きく弾き飛ばされた。




