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第58話

「……。」


 彩香は答えに詰まり、その場で足を止めた。


「あれ? どうした?」


 弘毅も立ち止まり、不思議そうに彩香の顔を覗き込む。


 彩香は一瞬だけ視線を逸らした。


「……何でもないわ。」


 小さく微笑むと、その表情を隠すように前を向く。


「さあ、急ぎましょう。」


 そう言って彩香は再び歩き出し、弘毅たちを先導した。


 三人は彩香の案内で、迷路のように入り組んだ研究施設の中を進んでいく。


 いくつもの通路を抜け、幾重もの扉を越えた先――。


 ようやく施設の最深部へとたどり着いた。


 そこには、ひときわ巨大な鋼鉄製の扉が静かに立ちはだかっていた。


「この先か……。」


 弘毅は扉を見上げる。


「早く中へ入って、マスターコンピューターを止めよう。」


 そう言って扉に手を掛けた、その瞬間――。


「待って!」


 彩香が慌てて弘毅の腕をつかんだ。


「どうした?」


 弘毅が振り返る。


 彩香は重々しい表情で鋼鉄の扉を見つめた。


「この扉は、簡単には開かないの。」


「えっ?」


「中へ入るには、この扉と連動している三つの電源装置を停止させなければならない。」


 静まり返った空間に、彩香の声だけが響く。


「三つの電源を……。」


 弘毅は巨大な扉を見つめながら、小さく息をのんだ。

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