第56話
彩香は悲しげに目を伏せると、小さく息をついた。
「ここは……駿一が造り上げた、生きた研究施設なの。」
「生きた……研究施設?」
弘毅は思わず聞き返した。
あの迷路のように変化し続ける廊下が脳裏によみがえる。
まるで施設そのものが意思を持っているようだった。
その言葉で、弘毅はようやく腑に落ちた。
隣で話を聞いていた奈津は、不安そうな表情で彩香を見つめる。
「ねぇ……ここから出る方法はないの?」
彩香は奈津の顔をじっと見つめた。
その瞳には、どこか愛おしさと悲しみが入り混じっていた。
「……あることは、あるわ。」
しかし、その声は重く、どこかためらいを含んでいた。
「本当か!」
弘毅が一歩前へ出る。
「教えてくれ!」
彩香はしばらく黙っていた。
何かを決意するように目を閉じ、ゆっくりと頷く。
「……わかった。」
そして、真っすぐ弘毅を見つめた。
「この研究施設の最深部には、すべてを制御しているマスターコンピューターがあるの。」
「マスターコンピューター……?」
「それを停止させれば、この施設の機能はすべて止まる。」
彩香は小さく息をのみ、静かに続ける。
「そうすれば、この施設から脱出できるはずよ。」
その言葉に、弘毅と奈津は顔を見合わせた。
だが――。
この巨大な研究施設の最深部へたどり着くことが、どれほど困難なのか。
二人はまだ知る由もなかった。




