第55話
「う、ウソだ……!」
弘毅は奈津の手を強く握ると、駿一から逃げるように駆け出した。
二人は薄暗い廊下を夢中で走り続ける。
だが、どれだけ走っても出口は見つからない。
同じような通路が延々と続き、曲がっても、曲がっても景色は変わらなかった。
まるで建物そのものが意思を持ち、二人を閉じ込めようとしているかのようだった。
『もう……ダメだ……』
弘毅が絶望しかけた、その時だった。
長く続く通路の先に、一人の少女が立っていた。
「……こっち。」
小さく手を振っていたのは、彩香だった。
「彩香……?」
弘毅は思わず足を止める。
突然現れた彼女に警戒したものの、彩香は静かに頷き、
「早く……時間がないの。」
と、焦った様子で二人を手招きした。
その真剣な表情を見た弘毅は、奈津と顔を見合わせる。
「……行こう。」
二人は彩香を信じることにした。
彩香は迷うことなく複雑な通路を進み、やがて重い扉の前で立ち止まる。
扉を静かに開けると、その先には小さな部屋があった。
「ここなら……しばらくは大丈夫。」
彩香はそう言って、ほっとしたように微笑んだ。
その表情には、どこか安堵と悲しみが入り混じっていた。
「あ、ありがとう……。」
ようやく息を整えた弘毅は、彩香を見つめる。
「一体ここは何なんだ? この建物は……。」
彩香はしばらく黙ったまま扉の向こうへ耳を澄ませる。
誰も追ってきていないことを確認すると、ゆっくりと弘毅の方へ振り返った――。




