第51話
弘毅がゆっくりと意識を取り戻すと、薄暗い部屋の中にある診療用のベッドへ横たえられていた。
天井には白く色褪せた蛍光灯。
薬品のような、鼻を刺す消毒液の匂いが漂っている。
「……ここは?」
弘毅はゆっくりと辺りを見回した。
見覚えのない部屋だった。
診療所のようにも見えるが、人の気配はない。
自分がなぜここにいるのか、まったく思い出せなかった。
そのとき――。
「……たすけて……」
かすれた女性の声が、どこからともなく聞こえてきた。
「……!」
弘毅は息を呑む。
聞き覚えのある声だった。
しばらく耳を澄ませていると、再び弱々しい声が響く。
「た……たすけて……」
その瞬間、弘毅の表情が変わった。
「奈津……!」
間違いない。
あれは奈津の声だ。
『奈津を助けなきゃ……!』
弘毅は勢いよく起き上がろうとした。
しかし、身体はほとんど動かなかった。
「なっ……!」
両腕も両脚も、太い革ベルトのようなものでベッドへ固く固定されている。
「何だ、これは!」
弘毅は必死にもがいた。
身体を捩り、腕に力を込める。
だが、拘束はびくともしない。
「奈津!」
叫びながら、なおも全身の力を振り絞る。
何度も何度も身体を揺さぶり続けるうちに、革ベルトが少しずつ軋み始めた。
――ミシッ。
鈍い音とともに、右腕の拘束がわずかに緩む。
弘毅はその隙を逃さず腕を引き抜き、続けて左腕、両脚の拘束も力任せに外していく。
やがて最後のベルトが床へ落ちた。
弘毅はベッドから飛び降りると、奈津の声が聞こえた方へ駆け出した。




