第48話
新聞売り場の前で立ち尽くしている弘毅を見て、奈津が不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
弘毅はハッと我に返ると、小さく笑みを作った。
「いや……何でもない」
そう言って手にしていた新聞を棚へ戻す。
「もう大丈夫?」
「うん」
奈津は頷いた。
「それじゃ、行こうか」
二人は店を出ると、駐車場に停めていた車へ戻った。
運転席に腰を下ろした弘毅は、キーを差し込もうとして、ふと手を止める。
――何かがおかしい。
言葉では説明できない。
しかし、胸の奥で警鐘が鳴っていた。
車内をゆっくりと見回す。
シートもダッシュボードも、荷物の置き方も、さっき車を降りたときと何一つ変わっていない。
それでも、どこかに拭いきれない違和感があった。
隣の奈津が不思議そうに弘毅を見つめる。
「どうしたの? 出発しないの?」
弘毅は視線をフロントガラスへ向けたまま、小さく呟いた。
「……この車、何か変じゃないか?」
「え?」
奈津も車内を見回した。
足元。
後部座席。
ダッシュボード。
窓の外まで確認してから、小さく首を横に振る。
「私は何も変わっていないように見えるけど……」
弘毅は黙ったまま周囲を見渡した。
"気のせい"と言われれば、それまでなのかもしれない。
だが、今まで何度も胸騒ぎが現実になってきた。
今回だけは、その違和感を無視してはいけない――。
そんな予感が、弘毅の胸を強く締めつけていた。




