第47話
奈津は助手席に身を預けたまま、青ざめた表情で窓の外を見つめていた。
その様子に気づいた弘毅は、ハンドルを握ったまま心配そうに声をかける。
「大丈夫か? 顔色が悪いぞ。少し車を止めようか?」
奈津は小さく首を横に振り、無理に笑顔を作った。
「ううん……大丈夫。さっきのことを、少し思い出しただけだから……」
その言葉を聞いた瞬間、弘毅の脳裏にも狭間の診療所で起きた惨劇がよみがえる。
床に広がる血。
息絶えた狭間。
泣き崩れる加奈子。
そして、自分に刃を向けた奈津――。
弘毅は無意識にハンドルを握る手へ力を込めた。
重苦しい沈黙が車内を包む。
それからしばらく走ると、弘毅は道路脇のコンビニへ車を滑り込ませた。
「少し休憩しよう」
車を降りた奈津は、そのまま店内のトイレへ向かう。
弘毅は店内を見回すと、入口近くに並ぶ新聞売り場へ足を運んだ。
狙いは一つだった。
――狭間の診療所で起きた事件の記事。
事件の規模を考えれば、新聞やニュースで大きく報じられていても不思議ではない。
しかし、一紙ずつ目を通しても、それらしい記事はどこにも見当たらなかった。
社会面にも、地方欄にも載っていない。
まるで、あの惨劇そのものが存在しなかったかのようだった。
「……どういうことだ?」
弘毅は新聞を閉じ、呆然と立ち尽くす。
事件は、まだ発覚していないのか。
それとも――誰かが隠しているのか。
次々と疑問が頭をよぎる。
「お待たせ!」
聞き慣れた明るい声に振り返ると、奈津がこちらへ歩いてきていた。
弘毅は慌てて新聞を棚へ戻し、何事もなかったように奈津へ微笑み返した。




