第42話
「だ、大丈夫ですか?」
弘毅は拳銃の安全装置をかけると、加奈子たちのもとへ駆け寄った。
加奈子は恐怖で顔を青ざめさせながらも、小さく頷く。
愛華も地面に座り込んだまま呆然としていた。
「よかった……」
弘毅は安堵の息を漏らした。
その瞬間だった。
「死ねっ!」
鋭い叫び声が響く。
「!?」
弘毅が振り向く。
そこには鬼気迫る表情の愛華がいた。
いつの間に取り出したのか、手には一本のナイフが握られている。
その刃が真っ直ぐ弘毅の胸を狙っていた。
「危ない!」
考えるより先に身体が動いた。
弘毅は身をひねり、間一髪で刃をかわす。
ナイフは空を切った。
愛華はさらに襲いかかろうとする。
だが弘毅は愛華の手首を掴み、その勢いを利用して身体を崩した。
そして首筋へ軽く手刀を打ち込む。
愛華の瞳から力が抜けた。
そのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「愛華さん!」
弘毅は慌てて抱き止めた。
気を失っているだけだ。
命に別状はない。
しかし弘毅の頭は混乱していた。
『どういうことだ……?』
さっきまで普通に話していた愛華が、なぜ突然自分を殺そうとしたのか。
しかも、その目はどこか虚ろだった。
まるで別人のように。
「どうなっているの……?」
呆然とした加奈子が呟く。
弘毅にも答えは分からなかった。
しばらくして気を取り直した加奈子は、はっとしたように顔を上げた。
「そうだ……主人は?」
その言葉に弘毅の表情が曇る。
加奈子は弘毅の様子に気づかぬまま診療所へ駆け込んだ。
そして――。
「いやああああっ!」
悲痛な叫び声が診療所の中から響いた。
狭間の死を知ったのだ。
弘毅は拳を握り締めた。
『これから……どうなるんだ……』
狭間は死んだ。
黒ずくめの男たちが襲ってきた。
愛華は突然、自分を殺そうとした。
何一つ理解できない。
その時だった。
弘毅はふと違和感を覚えた。
『待てよ……』
先ほどの混乱の中で聞いた声。
聞き慣れた女性の声だった。
『奈津さん……?』
確かに聞こえた気がする。
だが、奈津の姿はどこにもない。
弘毅は診療所の周囲を見回した。
胸騒ぎがしてならなかった。




