第39話
狭間から事情を聞いた愛華は、
「へぇー……そうなんだ」
と小さく呟いた。
そして弘毅をまじまじと見つめた後、
「なんだぁ……この人、駿一じゃないんだ」
と肩を落とした。
そのまま力が抜けたようにソファへ腰を下ろす。
「がっかり……」
その様子を見た弘毅は申し訳ない気持ちになった。
「ご、ごめんなさい……」
思わず頭を下げる。
愛華は不思議そうな顔をした。
「なんでアンタが謝るのよ?」
「いや……何となく……」
弘毅は苦笑した。
愛華はしばらく弘毅の顔を見つめていたが、やがて首を傾げた。
「それにしても、本当に似てるよね」
そう言いながら、じっと弘毅を見つめる。
「目も顔も声もそっくりじゃない」
そして少し身を乗り出した。
「本当に駿一じゃないの?」
真剣な眼差しだった。
弘毅は困ったように笑う。
「ええ……たぶん違います」
「たぶん?」
愛華はさらに怪しそうな顔をした。
「だって、僕自身のこともよく分からないんです」
その言葉に愛華は一瞬だけ黙り込んだ。
記憶を失っている――。
その事実を改めて実感したのだろう。
重くなりかけた空気を破るように、診療所の方から聞き慣れた声が響いた。
「こんにちはー!」
その声を聞いた瞬間、弘毅の胸が少しだけ軽くなった。
聞き覚えのある明るい声だった。
「奈津さん……?」
弘毅が呟く。
愛華も振り返った。
「あれ?」
狭間は苦笑しながら立ち上がる。
「どうやら、また君にお客さんみたいだな」
そう言うと、狭間は診療所の方へと歩いていった。
弘毅も自然とその背中を目で追った。
奈津が来た――。
それだけで、なぜか少し安心している自分に気づいていた。




