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第37話

弘毅は昨夜、ほとんど眠れなかった。


 夕食の間も、風呂に入っている時も、布団に入ってからも。


 ずっと誰かの視線を感じていたからだ。


 診療所の外。


 森の向こう。


 闇の中に潜む何者かが、ずっとこの家を見張っている。


 そんな気がしてならなかった。


 『あいつら……何者なんだ?』


 昼間、森で見かけた黒服の男達の姿が頭に浮かぶ。


 何度か窓から外を覗いたが、それらしい姿は見えない。


 しかし気配だけは消えなかった。


 まるで獲物を待つ獣のように。


 だが結局、その夜は何事も起こらなかった。


 誰かが侵入してくることもなく、朝を迎えた。


 そして朝になると、不思議なことに気配は跡形もなく消えていた。


 『一体、何だったんだ……』


 弘毅はそんなことを考えながら、加奈子が作った朝食を口に運んだ。



 朝食を終えた弘毅は、昨日森で拾った子犬と遊んでいた。


 子犬もすっかり懐いたのか、元気よく庭を駆け回っている。


 その時だった。


 バタン!


 診療所の玄関が勢いよく開いた。


 「駿一ーっ! どこーっ!?」


 若い女性の大きな声が家中に響く。


 弘毅が驚いて振り返ると、一人の少女が慌てた様子で飛び込んできた。


 歳は奈津と同じくらいだろうか。


 活発そうな雰囲気を持つ少女だった。


 愛華である。


 愛華は弘毅の姿を見つけた瞬間、ぱっと表情を輝かせた。


 「もうっ! どこに行ってたのよ!」


 そう叫ぶなり、一直線に駆け寄ってくる。


 「心配したんだから!」


 次の瞬間。


 愛華は弘毅にぎゅっと抱きついた。


 「おかえり、駿一!」


 突然のことに弘毅は固まる。


 「えっ……ちょっ……」


 言葉が出てこない。


 しかし愛華は涙ぐみながら笑っていた。


 本気で駿一が帰ってきたと思っているのだ。


 そんな愛華の姿に、弘毅は戸惑うしかなかった。


 その時――。


 ウゥゥゥ……。


 低い唸り声が聞こえた。


 二人の足元で子犬が毛を逆立てている。


 鋭い目で愛華を睨みつけていた。


 今にも飛びかかりそうな勢いだった。


 愛華はようやく子犬の存在に気づく。


 「えっ?」


 子犬はさらに警戒を強める。


 弘毅を守ろうとしているかのようだった。


 部屋の空気が一瞬だけ張り詰めた。

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