第3話
巨大な光の渦が、ゆっくりと車窓いっぱいに広がっていく。
青白い光。
紫色の閃光。
幾重もの光の輪が重なり合い、まるで宇宙そのものが捻じ曲がっているようだった。
ギャラクシアは速度を落とすことなく、その渦の中心へ突っ込んでいく。
その瞬間だった。
――ゴォォォンッ!
鈍い衝撃が車体全体を貫いた。
弘毅の身体がシートへ強く押し付けられる。
「うっ……!」
息が詰まる。
全身が重い。
まるで見えない何かに身体を掴まれているようだった。
車内の照明が激しく点滅する。
窓の外では、無数の光景が一瞬ごとに流れていた。
高層都市。
崩壊した街。
見たこともない海上都市。
雪に埋もれた東京タワー。
燃え上がる空。
そして――見知らぬ少女の笑顔。
「……え?」
弘毅の胸が大きく脈打った。
今のは誰だ。
どうしてあんな顔が見えた。
次の瞬間、激しい頭痛が走る。
ズキン、と脳の奥を直接叩かれるような痛みだった。
「っ……!」
弘毅は思わず頭を押さえる。
何かを思い出しそうになる。
だが、その度に記憶は霧のように崩れていく。
――駄目だ。
思い出せない。
その時、再び車内アナウンスが流れた。
『タイムトンネル内部への突入を確認。時間座標固定まで残り六十秒』
アナウンスは機械的なのに、どこか冷たかった。
『全乗客の時間保護フィールドを確認しました』
弘毅は苦しそうに息を吐きながら、ゆっくり顔を上げる。
他の乗客たちは、不思議なくらい静かだった。
誰も悲鳴を上げない。
誰も驚かない。
まるで、この異常な光景に慣れているみたいだった。
いや――違う。
感情そのものが薄い。
そんな風に見えた。
その中で、一人だけ。
通路の奥に座る老人が、じっと弘毅を見ていた。
白髪の老人だった。
深く皺の刻まれた顔。
古びた帽子。
だが、その目だけは妙に鋭い。
老人は弘毅と視線が合うと、小さく笑った。
そして、ゆっくり口を動かす。
『やっと……来たか』
声は聞こえなかった。
だが、確かにそう言ったように見えた。
次の瞬間――。
車窓の外が、真っ白な光に包まれた。
世界が反転する。
重力感覚が消える。
弘毅は意識が遠のいていくのを感じた。
その薄れていく意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。
『――今度こそ、君を……』
そこで、弘毅の意識は暗闇へ落ちた。




