第24話
冷たい海風にさらされたせいか、弘毅は身体の芯まで冷え切っていた。
そろそろ車へ戻ろう――そう思った時だった。
突然、頭の奥がズキリと疼く。
「っ……!」
鋭い痛みと共に、記憶の断片が脳裏に流れ込んできた。
青く広がる海。
白い波。
そして、波打ち際ではしゃぐ一人の女性。
長い髪を風になびかせながら、楽しそうに振り返っている。
その顔は奈津によく似ていた。
だが、どこか違う。
もっと大人びていて、優しく微笑むその女性の名を、弘毅は知っていた。
――真理。
『ま、またか……』
激しい頭痛に襲われた弘毅は頭を抱え、その場に膝をついた。
「弘毅!? 大丈夫!?」
奈津が慌てて駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
「ああ……大丈夫……」
そう答えたものの、弘毅の顔からは完全に血の気が失せていた。
呼吸も荒い。
額には冷や汗が滲んでいる。
奈津は不安そうに唇を噛んだ。
「……やっぱり変だよ。
病院へ行こう? 一度ちゃんと診てもらった方がいいって」
奈津は弘毅の前にしゃがみ込み、真剣な眼差しで訴えた。
「だ、大丈夫だから……」
弘毅は立ち上がろうとした。
だが、足に力が入らない。
ふらりと身体が傾き、そのまま砂浜へ崩れ落ちた。
「弘毅!」
奈津が慌てて身体を支える。
その時だった。
「どうかしたのかね?」
穏やかな声が二人に掛けられた。
振り向くと、一匹のゴールデンレトリバーを連れた初老の男性が立っていた。
犬は興味深そうに尻尾を振りながら弘毅を見つめている。
散歩の途中だったのだろう。
男性は心配そうな表情で二人に近づいてきた。
「顔色がずいぶん悪いようだが……」
初老の男性――狭間は、苦しそうにうずくまる弘毅を見つめながら優しく声を掛けた。




