第23話
「大丈夫? ひどい熱だよ……」
奈津が心配そうに顔を覗き込むと、弘毅は苦しげに息をつきながらも、無理に笑みを浮かべた。
「ああ……大丈夫。ありがとう」
そう言って、ペットボトルを持つ奈津の手を、思わず強く握りしめてしまう。
「あっ……」
突然のことに奈津は小さく声を漏らし、頬を赤らめながら顔を逸らした。そして慌ててそっと手を引く。
その拍子に、ペットボトルが二人の間からぽとりと足元へ転がり落ちた。
「ご、ごめん……」
我に返った弘毅は気まずそうに謝ると、そのまま逃げるように車の外へ出た。
海から吹きつける冷たい風が、熱を帯びた身体を一気に駆け抜ける。
それを追うように奈津も車を降りたが、薄手の服しか着ていなかったため、肩をすくめて身を震わせた。
「うぅ……寒っ……」
その姿に気づいた弘毅は、何も言わずに自分の上着を脱ぐと、そっと奈津の肩に掛けた。
「あ……ありがとう」
奈津は驚いたように目を見開き、それから少し照れたように微笑みながら、上着を胸元で抱き寄せる。
潮の香りを含んだ風が、二人の間を静かに吹き抜けた。
誰もいない冬の海。
白く砕ける波だけが、途切れることなく浜辺に押し寄せては返していく。
弘毅と奈津は並んで、その冷たい海をしばらく黙って見つめていた。
けれど、その沈黙は気まずいものではなかった。
言葉にできない何かが、少しずつ二人の距離を近づけていた。




