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第22話

 弘毅の様子がおかしいことに気づいた奈津は、慌ててハンドルを切った。


「ちょっと、休憩!・・・・」


 そう言うと、近くの片貝海水浴場の駐車場へ車を滑り込ませる。


 車が止まると同時に、奈津はシートベルトを外し、弘毅の方へ身を乗り出した。


「本当に大丈夫?・・・・」


 心配そうに覗き込む奈津の声が、どこか遠くに聞こえる。


「ああ……大丈夫……」


 弘毅は無理に笑顔を作って答えた。


 だが、顔を上げることができない。


 頭の奥で何かが軋み、鈍い痛みがじわじわと広がっていた。


 その様子を見た奈津は、さらに表情を曇らせる。


「ちょっと待ってて。

 何か飲み物、買ってくるね?・・・・」


 そう言い残すと、奈津は急いで車を降り、自動販売機の方へ駆けていった。


 ひとり車内に残された弘毅は、荒い呼吸を繰り返す。


 窓の向こうでは、潮風に乗って波の音が微かに聞こえていた。


 その時――


『……大丈夫?・・・・』


 ふいに、頭の奥から声が響いた。


 奈津にそっくりな、けれどどこか違う女性の声。


 優しく、懐かしく、胸の奥を締めつけるような響きだった。


 次の瞬間、その女性の顔が鮮明に浮かび上がる。


 長い髪。


 柔らかな微笑み。


 そして、悲しげに揺れる瞳。


 激しい痛みが弘毅の頭を貫いた。


「うっ……!」


 視界がぐらりと揺れる。


 現実と記憶の境界が崩れ、意識が深い闇へ引きずり込まれていく。


 薄れゆく意識の中で、弘毅の唇がかすかに動いた。


「……茉里……」


 そのまま、弘毅はシートにもたれかかり、静かに意識を失った。


 ――数分後。


 額にひんやりとした感触が触れた。


 その冷たさに導かれるように、弘毅はゆっくりと目を開ける。


 ぼやけた視界の先に、心配そうな顔があった。


 奈津だった。


 片手に冷えたペットボトルのお茶を持ち、そのボトルをそっと弘毅の額に当てている。


「よかった……気がついた」


 奈津はほっとしたように、小さく息をついた。

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