第21話
「ちょっと遠いから、少し飛ばすわね!・・・・
ちゃんと掴まっててよ?」
奈津はそう言うと、アクセルをぐっと踏み込んだ。
小さな車体が軽やかに加速し、車は東九十九里道路を東へと駆け抜けていく。
窓の外では、流れる景色が次々と後方へ消えていった。
真亀インターチェンジを降りると、奈津はそのまま海沿いの道へと車を走らせる。
潮の匂いを含んだ風が、わずかに車内へ入り込んできた。
「あれ……?
確か、この辺りのはずなんだけど……」
奈津は速度を落とし、道路脇の景色を確かめるように辺りを見回した。
「だ、大丈夫?・・・・」
弘毅は不安そうに奈津の横顔を見つめる。
その瞬間だった。
ふいに、弘毅の脳裏にひとつの光景が閃いた。
青い海。
まぶしい陽射し。
そして、奈津とそっくりな女性が、楽しそうに笑いながらハンドルを握っている。
隣には――確かに、自分がいた。
潮風を受けながら、二人で何かを話している。
懐かしく、けれど思い出せない。
まるで霧の向こうにある記憶だった。
『な、何だ……この記憶は……?』
次の瞬間、鋭い痛みが頭を貫いた。
「っ……!」
頭蓋の奥から何かが無理やりこじ開けられるような激痛。
弘毅は思わず頭を押さえ、その場に身を丸めた。
「ちょ、ちょっと!?
どうしたの!?」
奈津は慌てて車を路肩へ寄せながら、弘毅の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫……」
弘毅は苦しげに息を吐きながら答える。
だが、視界が揺れていた。
甦りかけた記憶と目の前の現実が入り混じり、頭の中で激しく渦を巻いている。
まるで、ふたつの時間が無理やり重なり合おうとしているかのようだった。
頭の奥が焼けつくように熱い。
このままでは、意識まで飲み込まれてしまいそうだった。




