第17話
なぜ、自分は未来行きのチケットを握り締めていたのだろう。
なぜ、あの駅のホームに一人で立っていたのだろう。
そして――。
ギャラクシアという未来行きの列車の中で出会った、あの少女。
彩香。
彼女は一体、何者なのか。
どうして自分のことを知っているような口ぶりだったのか。
「……わからない」
弘毅は小さく呟いた。
いくら考えても、答えは見つからない。
記憶の断片に手を伸ばそうとしても、そのたびに指の隙間から零れ落ちていく。
考えれば考えるほど、弘毅は深い迷宮の中へ引きずり込まれていくような感覚に襲われた。
出口の見えない暗闇。
どこへ進めばいいのかもわからない。
その恐怖に、胸が締めつけられる。
今すぐ、この場から逃げ出したかった。
何もかも放り出して、どこか遠くへ。
そうすれば、この不安から解放される気がした。
だが――。
『大丈夫。私が付いてるから』
奈津の言葉が、不意に脳裏に蘇る。
明るくて、どこまでも真っ直ぐな声。
何の根拠もないはずなのに、不思議なくらい安心できる言葉だった。
その一言が、弘毅をこの場所に繋ぎ止めていた。
「……奈津」
弘毅はぽつりと名前を口にする。
もし彼女がいなかったら。
自分はきっと、とっくにどこかへ逃げ出していただろう。
弘毅はベンチに深く腰掛けたまま、静かな夜を見つめていた。
やがて、いつの間にか東の空が白み始める。
黒かった空がゆっくりと群青へ変わり、薄い朝の光が公園を包み込んでいく。
死んだように静まり返っていた公園が、少しずつ息を吹き返していった。
ジョギングをする人。
犬を散歩させる老人。
通勤へ向かう人々の足音。
夜の静寂は消え、朝のざわめきが広がっていく。
弘毅はぼんやりとその光景を眺めていた。
結局、一睡もできなかった。
頭は重く、身体もだるい。
それでも、夜を越えたことで少しだけ気持ちが落ち着いていた。
「さて……」
弘毅はゆっくり立ち上がる。
「眠気でも覚ますか」
視線の先には、公園の入り口近くに設置された自動販売機があった。
せめて温かいコーヒーでも飲めば、少しは頭が冴えるかもしれない。
弘毅はベンチを離れ、自動販売機へ向かって歩き出した。
その時――。
背後から、聞き覚えのある元気な声が飛んできた。
「おはよう!」
弘毅は思わず振り返った。




