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第16話

夜だというのに、街は昼間のように明るかった。


 ネオンが絶え間なく瞬き、巨大なビジョンが色鮮やかな映像を映し出している。


 人々の笑い声。


 車の走行音。


 どこからか流れてくる音楽。


 新宿の街は、夜になっても眠る気配を見せなかった。


 男も女も、薄着のまま無防備に歩いている。


 肩を寄せ合って笑う恋人たち。


 酔って騒ぐ若者たち。


 スマートフォンを片手に、何の警戒心もなく歩く人々。


 弘毅がいた時代では、到底考えられない光景だった。


 未来の夜の新宿は、危険そのものだった。


 暗い路地には犯罪者が潜み、人々は皆、常に周囲を警戒していた。


 夜に一人で出歩くことは、自殺行為に等しかった。


「……なのに」


 弘毅は雑踏の中で立ち止まり、小さく呟く。


「どうして、こんなに懐かしいんだ……?」


 初めて見るはずの街。


 それなのに胸の奥が、妙にざわめく。


 まるで遠い昔に、この景色を知っていたような――そんな奇妙な感覚だった。


 その時。


 ふいに弘毅の脳裏に、一つの情景が浮かぶ。


 この街を、誰かと歩いている。


 手を繋ぎながら、楽しそうに笑っている。


 隣にいるのは――奈津。


 ……いや、違う。


 よく見ると、その横顔は奈津ではなかった。


 銀色の髪。


 透き通るような灰色の瞳。


 ギャラクシアの中で出会った少女。


 彩香だった。


「彩香……」


 その名を口にした瞬間、胸の奥が締め付けられる。


 どうして彼女と、この街を歩いていたような気がするのか。


 どうしてこんなにも鮮明に、温もりだけが残っているのか。


 だが、その先を思い出そうとすると、記憶は霧のように掻き消えてしまう。


 弘毅はゆっくり首を振った。


「……違う」


 この街にいてはいけない。


 そんな気がした。


 華やかなネオン。


 楽しげな人々。


 この場所は、自分のいるべき場所ではない。


 雑踏の中で、自分だけが異物のように感じられた。


 立ち止まる弘毅の横を、人々が何事もないように通り過ぎていく。


 誰も彼に気づかない。


 誰も彼を知らない。


 その孤独が、急に胸に重くのしかかった。


 弘毅は踵を返した。


 そして、足の向くまま公園へ戻る。


 奈津と別れた、あのベンチへ。


 華やかな街とは対照的に、公園はひっそりと静まり返っていた。


 木々が風に揺れ、葉擦れの音だけが微かに響く。


 街灯の淡い光が、夜の闇をぼんやり照らしている。


 まるでそこだけ、時間が止まってしまったかのようだった。


 弘毅はベンチに腰を下ろす。


 冷たい金属の感触が、じんわりと身体に伝わった。


 奈津が来る朝まで、まだかなり時間がある。


 だが、不思議とここにいれば落ち着いた。


 弘毅は静かな闇の中で目を閉じる。


 そして今まで自分に起きた不可思議な出来事を、一つずつ思い返していた。


 未来の駅。


 タイムトンネル。


 ギャラクシア。


 銀色の少女――彩香。


 そして、この時代で出会った奈津。


 すべてがバラバラな断片のまま、頭の中を漂っている。


「俺は……一体、何者なんだ……」


 夜の静寂の中で、その呟きだけが小さく溶けていった。

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