第15話
「決まりね」
奈津は写真を弘毅に返しながら、ぱっと表情を明るくした。
「明日はちょうど日曜日だし、私どうせ暇だから」
そう言って、どこか得意げに胸を張る。
「この場所、一緒に探しに行こう」
「え……?」
弘毅は思わず目を瞬かせた。
あまりにも突然の提案だった。
奈津は当然のように続ける。
「写真の場所がわかれば、何か思い出せるかもしれないでしょ?」
その瞳は真剣だった。
弘毅は戸惑う。
今日会ったばかりの、素性もわからない自分に、どうしてここまで親身になれるのだろう。
「でも……迷惑じゃ……」
「迷惑じゃない」
奈津は即答した。
そして、いたずらっぽく笑う。
「こういうの、ちょっと面白そうだし」
「……」
弘毅は返す言葉を失った。
奈津の明るさに押されるように、小さく頷く。
「……うん」
「よしっ!」
奈津は満足そうに立ち上がった。
「じゃあ、明日の朝、この公園に迎えに来るから」
そう言うと、くるりと背を向ける。
「それまで、どこかで時間潰してて!」
「えっ、ちょっ――」
弘毅が何か言い返すより早く、奈津は手をひらひら振った。
「じゃあね!」
そのまま夜の闇へ駆け出し、あっという間に姿が見えなくなる。
弘毅は呆然と、その後ろ姿を見送った。
「……時間を潰せって言われても」
ぽつりと呟く。
右も左もわからない東京で、どうやって朝まで過ごせというのか。
名前も住所もない。
行く当てもない。
奈津との約束まで、まだ八時間近くある。
弘毅はしばらくベンチに座ったまま考え込んでいたが、やがて立ち上がった。
「……とりあえず、歩いてみるか」
このままじっとしていても仕方がない。
弘毅は公園を後にし、さっき奈津と出会った新宿の街へ向かった。
そして――。
街の光景を目にした瞬間、思わず立ち止まる。
「……すごい」
弘毅は思わず息を呑んだ。
ネオンが無数に輝いている。
巨大なビジョンには色鮮やかな映像が映し出され、通りには大勢の人々が行き交っていた。
笑い声。
車のクラクション。
店先から流れる音楽。
街全体が、生き物のように脈打っている。
弘毅の知る“新宿”とはまるで違った。
未来の新宿は、荒廃しきった街だった。
建物は煤け、通りにはゴミが散乱し、人々は皆うつむいて歩いていた。
夜になれば犯罪が横行し、誰もが他人を警戒していた。
殺伐として、冷たく、希望の欠片もない街。
だが、目の前の新宿は違う。
眩しいほどに明るく、熱気に満ちている。
「……これが、本当の新宿……」
弘毅は呆然と呟いた。
同じ街のはずなのに、まるで別世界だった。
その眩しさに圧倒されながらも、弘毅はゆっくりと雑踏の中へ足を踏み入れていった。




