第11話
奈津は、隣で蹲っている弘毅を見つめていた。
顔色は悪い。
呼吸も浅い。
無理をして“大丈夫”と言っているのは、誰が見ても明らかだった。
奈津は小さく唇を噛む。
そして突然、立ち上がった。
「ちょっと待っててね!」
そう言い残すと、奈津は夜の公園を駆け出していく。
弘毅はぼんやりと、その後ろ姿を見送った。
「あぁ……やっぱり……」
小さく呟く。
どこかで、こうなる気がしていた。
結局、自分は他人に迷惑を掛けるだけなんだ、と。
見知らぬ人間に関われば、普通は離れていく。
それが当然だった。
弘毅は俯き、静かに目を閉じる。
冷たい夜風だけが頬を撫でていった。
だが――。
「お待たせ!」
数分後。
奈津は再び公園の暗闇から戻ってきた。
少し息を切らしながら、弘毅の前にしゃがみ込む。
「はい。これ使って」
奈津が差し出したのは、濡らした白いハンカチだった。
コンビニで冷やしてきたのだろう。
水滴がぽたぽたと落ちている。
「え……」
弘毅は少し驚いた顔をする。
「良いよ、そんなの……」
迷惑を掛けたくなくて、反射的にそう言ってしまう。
だが奈津は困ったように笑った。
「良くない」
その声は優しかった。
「少しは楽になるから」
そして半ば強引に、奈津は濡れたハンカチを弘毅の額へ当てた。
「っ……」
ひんやりとした冷たさが、熱を持った額へ広がっていく。
気持ち良かった。
頭の奥で暴れていた痛みが、ほんの少しだけ和らぐ。
弘毅は思わず小さく息を吐いた。
その様子を見て、奈津は安心したように微笑む。
「ね? 気持ちいいでしょ?」
街灯の光に照らされたその笑顔を見た瞬間。
弘毅の胸が、不思議なくらい締め付けられた。
優しい笑い方だった。
どこか懐かしくて――。
そして、彩香によく似ていた。
タイムトンネルの中で、自分の手を握ってくれた少女。
『……大丈夫。私が付いてるから』
あの声が、再び頭の奥で微かに蘇る。
弘毅は思わず奈津の顔を見つめていた。
「……どうしたの?」
奈津が不思議そうに首を傾げる。
「あ……いや……」
弘毅は慌てて視線を逸らした。
だが胸の奥では、ひとつの違和感が大きくなっていく。
――どうして、この人はこんなにも懐かしいんだろう。




