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掌編集   作者: Elnika Flose


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3/11

8時の約束

高校1年の11月。登下校にも慣れて、電車通学から自転車通学に変わっていた。

とはいえ、小学校からの友達と「一緒に行こう」と約束をしていたので、途中のコンビニで待ち合わせることにした。

まるで、そのために作られたような立地のコンビニだった。

まだ携帯もない時代。僕たちはルールを決めた。

8時を過ぎたら、先に行く。

さすがに遅刻するまで待っていてとは言えなかったからだ。


自転車通学は、思っていた以上に寒い。

朝は早いし、坂を下ると風が刺さる。

それでも、指先以外は不思議と冷えなかった。

なぜって?下り坂を、クロスバイクもどきで全力で漕いでいたからだ。

朝の渋滞を横目に、自転車の方がずっと早いと思った。


待ち合わせ場所の反対側にたどり着く。

友の姿も、自転車の影もない。

時計を見ると、待ち合わせまであと10秒。

念のため、友が来るであろう方向を覗き込んだが、誰もいなかった。


深く息を吸い、学校の方を見つめる。

ゆっくりと吐き出しながら、18段ギアの中で一番重いペダルを踏み出した。

下り坂の勢いに背中を押され、スピードが上がる。

ペダルは羽のように軽く、油断すれば足が空回りしそうだった。


もう寒い時期なのに、なぜか汗だくだった。

教室に滑り込み、友の机を見たが、まだいなかった。

チャイムまであと5分。

どうやら車で20分かかる道を、15分で走り切ったらしい。

少しニヤけていたかもしれない。


そのとき、駆け込んできた友と視線が合う。

次の瞬間、胸ぐらを掴まれた。

「なんで待ってねぇんだよ?!」

思わず言葉を詰まらせたが、反射的に打ち返すように口が動いた。

「いや、待ってたよ。」


その瞬間、友の目がキッと細くなった。

自分の失言に気づいたときにはもう遅く、心の中で“しまった”とつぶやく。


「汗を見ればわかるだろ?」

そう言いながら、また余計なことを思い出す。

――最速記録だったかもしれない。

そう思うと、なぜか少し笑みがこぼれてしまった。


「なんだよ、その顔は!」

怒りの熱がまたぶり返す。

「いや、誤解なんだって」

「ってことは、やっぱり待ってなかったのかよ!」


一息の沈黙が、場の空気を変えた。

友の声が少しだけ弱まる。

自分が怒りすぎたことに気づいているようだった。


「ごめん。」

僕は悪くないと思いながらも、相手が納得しそうな言葉を探した。

「ちゃんと時計見たつもりだけど、見間違えたのかもしれない。」

そう言えば、一番早く収まる気がしたのだ。


――僕は、また間違った。


あいまいに終わらせようとした僕と、言いすぎて引けなくなった彼。

どちらの心にも小さな怒りが残った。


「だったら、はじめからそう言えよ。」

再び、強い語気がぶつかる。


「ごめん。」

そう言った瞬間、始業のチャイムが鳴った。


---


昼休み、いつものメンバーで集まった。

もちろん、彼もそこにいた。


「ごめん。」

「ごめん、俺も言いすぎた。」


それで、すべてが終わった。

――けれど、あの日の昼ご飯の味だけは、今も思い出せない。

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