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終幕

次の日。

コウタと待ち合わせをした。

特にこれといってやる事があるわけでもないが、これが一緒に過ごせる最後の日となるだろう。


コウタにどこに行きたいか聞いてみたが、これまた特に行きたい所はないのだと言う。

ただなんとなく1日を過ごすのも悪くはないが、コウタに俺が居た事の何かを残してやりたかった。


ただなんとなくとぼとぼと歩いていると、いつの間にかいつもの公園へ来ていた。

コウタに魔法を教えた場所だ。

思えばここでコウタに魔法を教えた事が、コウタの人生を変えてしまったのかもしれない。

コウタはここで教わった魔法、とも言い難い特技を覚え、そして世界的デビュー?を果たした。


俺が魔法を教えたのにあの程度で使える様になったと喜ばれても、なんだか納得がいかない。

そこで、今日は最後の追加講義をする事にした。


「コウタには世話になったし、魔法がしっかり使える様にきっちり教えてから去る事にした」

「えー、俺はこのままでも充分なんだけどな……」

「あんなもんは魔法とは言えない。雷属性ならせめて雷矢位は使える様になってもらわないと困る」

「困るって言われても……結構特訓したんだよー?」

「この世界の人間の魔力は、俺達の世界の人間よりも魔力の総数が低いのかもしれないな」

「じゃあ無理じゃん?」

「そこでだ……」


俺は、鞄の中にあるアイテムをかき分けてあるアイテムを取り出した。

特に必要だったから持ち歩いていた訳でもないのだが、宝箱から出たアイテムが整理されないまま鞄に眠っていたのだ。

このアイテムはきっとコウタに出会い、コウタに渡す為にこの鞄に転がり込んで来て、今まで鞄で眠っていたに違いないと思い込む事にした。


「この属性石をお前にやろう」

「何この石? 綺麗だねー!」

「これは雷属性の魔力を増強する効果のある石で、俺のこのゾーグルポールの先端についている様な物だ」

「へぇー。上杉の杖の先に付いてる石の色はまた別の色だね」

「ああ、これは魔力を全体的に底上げする物で、この属性石より遥に高価な石だ」

「おー、すごいんだね」

「雷属性を強化するだけならこの石でも充分だろう。この石を手で握って魔法を唱えてもいいんだが、大体は杖等の先端に付けて扱いやすくするもんだ」

「杖の先端って言っても、俺杖なんか持ってないよ?」

「杖の部分はまぁなんでもいいんだ。魔力伝道がよい木製の物がいいとされているがな」

「ふむー。じゃあなんか適当に木の棒の先にくくってみるよ」

「それがいい。今はまぁ手に持って使ってみるといい」

「おっけー!」


コウタの手に雷属性の石を持たせると、最初に天羽がやって見せたように、近くのゴミ箱から空き缶を拾って来て少し離れた場所に置いた。


「それじゃ、いつも魔力を集中する様にその石に集中したら、上空からあの空き缶に雷が落ちるイメージをしてみろ」

「おう! 任せろー!」


コウタは、右手に持たれた石を見詰めると何やらぶつぶつと呟いていた。

特に魔法を詠唱するのに呪文の様な物は必要としないのだが、コウタなりの集中をする儀式の様な物だろう。


コウタが暫くぶつぶつと呟き続けていると、上空に僅かだが暗雲が集まって来ていた。

これはいけそうなんじゃないだろうか。

ぶつぶつと呟く呪文の様な何かがピタっと止まったと思ったら、コウタは目を見開き空き缶を見詰ると叫びだした。


「唸れ雷雲! 轟け雷矢ーーー!!」


----- ピシャン!! -----


威力は初心者魔術師レベルにも満たなそうではあるが、見事に空き缶を捕らえた雷矢が上空から降り注いだ。


「うぉおお! 出た! 出たーーーー!!」


元々この世界では、俺達の能力も何かの力の影響か抑えられている状態ではあった。

属性石で魔力を増強したおかげも有り、見事魔法を修得出来たようだ。

これでコウタも魔術師を名乗ってもいい程度にはなっただろう。


「上手くいったな!」

「ありがとー! ありがとう上杉ーーー!!」


余程以前とは比べ物にならない様な目に見えて魔法ですという物が出た事が嬉しかったのか、コウタはそこら中を駆け回りぴょんぴょんとはしゃぎ飛び回っていた。

それ程喜んで貰えるなら教えた甲斐があったという物だ。


「時にコウタよ」

「ん? なんだい?」

「魔術師の先輩から一言忠告な」

「う? うん」

「俺達の世界では魔物相手に魔法を放つ事はあるが、この世界ではそういった魔物の類は存在しない様だ」

「うん、そうだね」

「魔法を極めて行くと、人1人位は平気で殺傷出来る威力にはなるだろう」

「そ、そうだよね……」

「くれぐれも悪用はしない事だな」

「うん! 大丈夫! 気をつけるよ!」


まぁ、コウタの事だ。

悪用なんてまずしないだろうが念の為忠告位はして置いた方がいいだろう。

この世界の唯一の友人コウタが殺人犯にでもなってしまったら寝覚めが悪いからな。


コウタは、手に持った属性石に息を掛け、ポケットから取り出したハンカチで磨いてはニコニコしてを繰り返していた。

微笑ましいコウタの行動を見ている内に、気付くと辺りは日が傾き始めていた。

そろそろお別れの時間だな。


「コウタ、今日はそろそろ帰るか」

「そうだね! お腹も空いて来たし帰ろうかー!」

「呑気な奴だな……ありがとうな、コウタ」

「うん? こちらこそありがとー! またね!」

「……ああ。またな……」


コウタは今日が最後の日になるなんて事は分かっていない様子だった。

だがそれがコウタのいい所だ。

何時も抜けている様な、それでいて腹黒さも兼ね備え、頼りがいのあるいい奴だった。

元の世界に戻ってもコウタの事は忘れないでいたい。

ありがとう、コウタ。


---


残りの数日は、特にこれと言って何をした訳でもなかった。

リオナールの鍛錬を観察し、食事に有り付き、なんだかんだと理由を付けて暖かな布団に包まる。

日中は街を歩き回り、疲れると日が傾くまでいつもの汚い川の流れを眺める。

もしかしたら存在が消えて無くなってしまうかもしれないのに。

そんな事は関係なく、いつもの日常が流れて行く。


川の流れをぼーっと眺めていると、睦月が消えて行く前に天羽母に言っていた言葉を思い出した。


----- 私を産み出してくれてありがとう -----


俺以外の中の人それぞれとは一通り会った。

だが、俺は俺の中の人に会う事は適わない。

会った瞬間にこの世界から消えて無くなってしまうのだから。


産み出してくれてありがとうか。

そんな事考えた事も無かったが、確かに産みの親の様な物だ。


考えてみたら不思議な物だ。

俺達の世界にも家族はある。

商人や衛兵になる奴もいれば、俺達の様に冒険者へとなる奴もいる。

それぞれが皆親がいて、普通にその世界に産まれているはずなのだ。


俺にも親がいて、冒険者となる前に魔術のいろはを教えてくれたのは親なのだ。

うちは代々魔術師家系の為、その能力に秀でている。

魔術師になると決めていた訳ではないが、素質があったからなった。

ただそれだけなのだが。


だが、俺達の記憶はこの世界の中の人とリンクしている。

いつ、どのタイミングからリンクするのか。


この世界の中の人は皆、シーナリーリピートというゲームをしている人達だ。

聞く話によると、シーナリーリピートはいち冒険者としてグランビューデルの世界で生活をするゲームらしい。

ある人は合成に勤しみ、ある人は狩りを楽しみ、ある人は会話ばかりして何もしなかったりしている。

ゲームを開始すると、冒険者からスタートするそうだ。

と言う事は、俺達が冒険者となった瞬間からこの世界の人達とリンクされるのだろうか。


街の人々には中の人はいないらしい。

街の人としてゲームをしている人がいないのだ。

冒険者として俺が道を選んだ様に見えて、実の所中の人と出会う為、冒険者を選ぶ運命だったかの様に冒険者となったのかもしれない。


そう考えると、「産み出してくれてありがとう」という睦月の言葉はあながち間違いではない気もしてくる。

俺の中の人への感謝の気持ちか……

もう消滅してしまうかもしれない訳だし、そういうのを残すのも悪くは無いかもしれないな。


---


シーナリーリピートのメンテナンス当日。

俺達はいつもの公園へと集まっていた。

それぞれが神妙な面持ちの中、もこもこだけはいつもの調子であった。


メンテナンスの予定時間は14:00からの様だ。

それまでの間、それぞれの体に変化が見られないか注意深く観察をしながらその時を待っていた。


メンテナス開始時間まで残り1時間を切った頃だった。

その時を待っていた俺達の元へ、天羽・コウタ・茉莉華が集まって来た。

別れを済ませたはずの奴らがその場へまた来てしまった。

時間を取って別れを覚悟し、気持ちを切り替えてこの場所へやって来たというのに意味がないではないか。


「上杉ー! 聞いたぞ! 今日帰っちゃうんだってな!? 言ってくれよー……寂しいじゃないか……」

「わたしにもお別れも言わず、随分お世話してあげたはずなのに大した奴ね!」

「わ、わたくしはお二人を止めましたの……でも行くって聞かなくて……ごめんなさいですの」

「茉莉華は謝らなくていいぞ、こいつらはこういうやつらだ」

「酷い言い草ね!」

「それに俺は天羽には別れの挨拶はしたぞ。お前が酔っ払ってただけだろう」

「え? 会ってないし! わたしは一人で帰ってちゃんと家で寝ましたし!」

「鍵開けてやったのも布団まで運んでやったのも俺だっての……」

「覚えてないのはしてないのと一緒!」

「なんて理論だよ……」

「上杉ー! 俺は? 俺には?」

「コウタにもこないだ会った時言ったろ、ありがとうって」

「え? あれがそうだったの? そっかー。気付かなかった!」

「まぁそれがコウタクオリティだな」

「褒められ……てない気がする……」


刻一刻と迫るその時に、ピリピリしながら様子を伺っているよりは気が紛れたかもしれない。

ぎゃーぎゃーと騒ぐコウタと天羽、別れを惜しむ茉莉華、逃げ回るもこもこ。

それぞれがそれぞれでいつもの様な時間を過ごしている中、その時がやって来た。


----- パキーン -----


今まで騒ぎ回っていた奴や、逃げ回る奴、泣きじゃくる奴の物音が無くなり静寂に包まれた。

俺を除き、周り全員の動きが止まっていた。

時間が止まったかの様に、世界全体の動きが止まっていた。


人も、鳥も、猫も、雲も、川の流れも全て。


何秒間止まっていただろうか。

突然、スロー再生の様に止まっていた物が動き出した。

動き出したかと思いきや、動きがおかしい。

音も何やらキュルキュルと言う様な物音に聞こえる。

どうやらゆっくりと逆再生をしている様に時間を遡って動いていた。


先程見た天羽がもこもこを追いかけるシーン。

騒いでいるコウタ。

泣きじゃくる茉莉華の頬を流れる涙ですら目元へと吸い込まれて行く。


ゆっくりと巻き戻している様に動いていた者達が、徐々に動きを早めて行く。

周りの景色がどんどん巻き戻って行く。

その内自分のいる場所がいつもの公園ではない場所にいたりと、時間その物が巻き戻り今までやってきた事を逆再生で見ている様になって行く。


ものの数分、たった数分で俺はその当時は分かっていなかったスカイタワーをいつもの公園から眺めていた。

最初にこの世界に飛ばされた時に見ていた景色だ。


この世界に来た時まで時間が遡ったのだ。


これ以上遡るともうこの世界ではない所、ギガコマ討伐の例の一件まで遡ってしまうと言う所まで来て、辺り一面は真っ暗になった。



----- ブツッ! -----



何かが千切れる様なそんな音がしたかと思った瞬間、俺の意識は無くなった。


次話で最終話となります。次話のアップはいつもの6:00ではなく11:00頃を予定しております。

完走まで是非宜しくお願いします!

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